7 いつか出会える物語

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 それから季節が一巡りしようとする頃、トウはケラエノに従って旅をすることになった。  行先は幾つかの村を巡り、そして…… 「他の街があるんですか!?」  図書館での務めにも"城住み"の生活にも慣れてきたトウだったが、久々に驚いて大きな声を上げた。 「我々は、無いと教えたつもりはないのだがな……別の街もあるし、そこには城もある。当然、それらを支えている村々もある。世の中には、そういう形をとっていない街もあるのだぞ」 「もしかして、お姫様や王子様、魔女なんかも……」 「うーむ、それはいると言えばいるが……まあ、いずれ楽しみにしておるがよい」  出立の日。  爪に星の付いていない手を取って、トウは自分のエフェメラを馬車へと乗せた。あれ以来、このエフェメラはトウが使い続けてよいことになった。  それを見上げてゲンが笑顔を見せている。 「土産、頼むぞー。うちの嫁と子供も楽しみにしてるからな」  "城住み"となったトウに対しても、先輩としての接し方は変わっていない。そんな彼は頼もしくもあったが、相談をすると大抵「そんなもんだぞ。俺なんか、うちなんか、もっとな……」と自分の話ばかりするところも変わらない。留守中はケラエノの代理となる使用人と彼とで図書館を管理するのだという。  街の門へ向かって走る馬車から、トウはコチョウの姿を見た。ディケの館での一件以来、彼女とは会っていなかった。馬車が通る頃合いと場所を将校から聞いていたのか、じっと通り過ぎる一行を見つめていた。  彼女の腕には赤子が抱かれていた。  トウとコチョウの視線が交わる。彼女は泣くでも怒るでもなく、ただじっと彼を見ていた。トウはそこに強い意志を感じた。  絶対に、あんたよりも幸せになってやる――そんな声が伝わって来たように感じた。 ――さよなら、コチョウ。  トウも静かに、離れていく彼女の姿を見えなくなるまで見つめた。もう涙は出て来ない。けれども胸の奥は少し痛かった。 「この先には、良い女がたくさんいるかもしれんぞ」  ケラエノが明後日の方向を見たまま言った。 「そうかもしれません」 「いないかもしれんがな」 「……その方が苦労はしなくて済みそうです」  たくさんのことと出会っていきたい……そうは思ったトウだったが、女性に関してだけは未だに、あまり楽しい未来を想像できずにいるのだった。 「まあ、結婚するばかりが幸せでもないようだしな」 「そうですよ……きっとそうです」 「ちなみに、私にも妻がいるのだぞ」 「え? ……は? はぁ?」  門を抜けると石畳は途切れ、馬車の揺れは強くなった。 「ほれ、そんな顔で間の抜けた声を出していると舌を噛むぞー」  楽しそうに笑うケラエノに小さく溜息をついてから、トウは自分のエフェメラと、そして行く手の道を見た。  馬車は知らない世界へと向かって行く。  そこで出会うものを、感じるものを、たくさんエフェメラに残そう。そして、いつか必要とする誰かが出会えるように――彼は心に呟いた。  物語を創っていこう。
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