宇都宮君に懐かれてます。三話目

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「梨花君。ちょっといいかな?」 瀬良君はトランプをする集団から抜けて、私を校舎裏へと連れ出した。 「思ったんだけど、彼は男女が付き合うという意味がわかってないだけなんじゃないかな?」 「意味…ですか?」 確かに宇都宮君はそっち系のことが全然うといのだとは思うけど…… 遠くから私を探している宇都宮君の声が聞こえた。 こっちだよと呼ぼうとしたら瀬良君に手で口をふさがれてしまった。 「だから少し、わからせてあげたらいいと思うんだ。」 えっ、ちょ…… 瀬良君が、その長いまつ毛が当たるくらいに顔を寄せてきた。 「大丈夫…僕に任せて。」 なにをするつもりなんだろうか…… 瀬良君は私の口をふさいでいた手をどけると、その手で私の頬を優しく撫でた。 すっごく…ドキドキするんだけど…… 「あっいた梨花。瀬良も一緒か。なにしてんだ?」 宇都宮君がやってくると、瀬良君は見せつけるように私を引き寄せ、抱きしめた。 「なにって…僕達付き合ってるからね。」 思わせぶりにささやき、さらに強く私を抱きしめる。 こっ、これはやりすぎではないだろうか? 瀬良君の吐く息が首筋に当たっていてこしょばいっ。 「梨花ってちっこくて柔らかいだろ?すげえ抱き心地が良いんだよなあ。」 ガ────ンっ!! なにショップ店員みたいにオススメしちゃってんの?! そんな反応されたらこっちがショックだよっ! 瀬良君も拍子抜けしたのか、私を抱く力が緩んだ。 「これくらいじゃ、全然足りないみたいだね。」 瀬良君は私の耳元でそうささやくと、一旦私から離れ、今度は顔を近付けてきた。 えっ……この体制ってまさかっ…… うそでしょっ? 本当にはしないよね?寸止めだよね? 瀬良君はさらに顔を下に寄せて、私の胸に耳を押し当てた。 あれ…? これって…もしかして………… 「良い音だね。落ち着くのがわかる気がするよ。」 いつものか───────いっ!! なんなのっもう! そろいもそろって紛らわしいっ!! 私のドキドキ返して欲しいっ! 鈍い音が鳴り響いた。 宇都宮君が近くに生えていた木を足で思いっきり蹴っ飛ばしたのだ。 「梨花から離れろっ。」 ──────凄い怒っている。 私が瀬良君と付き合ってると言っても、目の前で抱きしめられていてもいつも通りの宇都宮君だったのに…… こんな表情の宇都宮君を見るのは久しぶりだ…… 「僕の彼女なんだから、君に指図される筋合いはないな。」 「ヤダね。梨花から離れろ。返してもらう。」 指をポキポキと鳴らし、今にも瀬良君に飛びつきそうなくらい殺気立っている。 「ダメだよ宇都宮君!絶対手を出しちゃダメ!」 私じゃもう、手に負えないかもしれない…… 「いいよ。ただし、僕に勝てたらね。」 「はあっ?」 余裕の表情で涼しげに微笑む瀬良君に、宇都宮君が苛立ちながら声を上げた。 「今度学校で開かれる音楽科の定期演奏会で競おう。一位を取った方が勝ちでトロフィーは彼女だ。」 トロフィー?えっ…私が賞品てこと? 「選曲は同じものにしよう。そうした方がどちらが上かわかりやすいだろ?」 やっと自分が思っていた通りの反応をしてくれた宇都宮君に、瀬良君はどんどん話を進めた。 「ベートーヴェンの『月光』にしようか。第3章は君には難しいかもしれないから、無理そうなら第2章まででもいいよ。」 月光の第3章は、他の章と違ってケタ違いに難易度が高い。 瀬良君はまだ初心者の宇都宮君に気を遣ったのかもしれないが、この言葉に宇都宮君はキレた。 「俺はてめえが難しいって思うレベルでも弾けるぜ?」 「ちょっと宇都宮君!」 「へえ…言うねえ。」 穏やかだった瀬良君の瞳の奥が鋭く光って見えた。 あれは…瀬良君が本気で怒っている時の目だ。 「気が変わった。リストの『ラ・カンパネラ』にしよう。」 ───────なっ……!! 「おう。いいぜ。そのカンなんとかで。」 なに二つ返事でOKしてんの?! 題名すら言えてないしっ!! 瀬良君はじゃあっと言って去っていった。 「バカっ!どんな曲か全然わかってないでしょ?!」 私の剣幕に宇都宮君がビクッとなった。 私はなにもわかってない宇都宮君に、スマホで検索してピアニストが演奏するカンパネラの曲を聞かせてあげた。 「マジか……」 宇都宮君はスマホを持ったまま青くなり、固まってしまった。 私は宇都宮君を置いて瀬良君の後を追った。
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