宇都宮君に懐かれてます。一話目

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宇都宮君に懐かれてます。一話目

私の思い出の中にはいつも彼がいた。 学校の登下校の時も 教室で勉強をしている時も みんなと遊んでいる時も いつもいつも彼がいた。 一人で寂しい時も 悲しくて仕方がない時にだって 当然のように彼はそばにいてくれた。 そう…私の隣にはいつも 宇都宮(うつのみや )君がいたんだ─────── 朝日が眩しい。 瞼を閉じているのに白く見えるほど…… あれっまだ朝じゃないよね? 電気が付いてる?消したはずなのに───── ──────まさかっ…… パチっと目を覚ますと目の前に顔があった。 「宇都宮君っ?!」 いくら見慣れた顔とはいえ夜中の不意打ちには誰だって驚くだろう。 こんな時間に年頃の女の子の部屋に無断で侵入…… 宇都宮君は悪びれる様子もなく、飛び起きた私に向かって両手を広げてきた。 「梨花(りんか)ハグしてくれ。寝付けない。」 宇都宮君の家は隣にあって、自分の家のベランダをつたって私の部屋に窓から入ってくる。 しっかり鍵はかけたのに。いつもどうやって入って来てるのだろう…… 言っとくが、私達は付き合っているわけではない。 「宇都宮君…こんなことしちゃダメなんだよ?」 「誰も見てないとこなら良いって言ったじゃん。」 「私は時間のことを言ってるのっ。」 窓からの不法侵入はっ?とお思いだろうが、それを言っても通じないのが宇都宮君だ。 「明日からの高校生活のことを考えたら心がザワついて寝れないんだよ。」 宇都宮君がすがるような目をしてもう一度両手を広げておねだりしてきた。 宇都宮君は得意なこと、不得意なことの差が激しい。 新しい場所、新しい環境というのは宇都宮君にとってはすごく苦手なことなのである。 「わかった。落ち着いたら自分の部屋に戻ってよ?」 私がそう言うと、宇都宮君は私の胸に耳を押し付けながら抱きついてきた。 「やっぱり梨花の音が一番安心する。」 真夜中にベッドの上で抱き合う男女…… 普通ならこれからおっ始めるようなシュチュエーションなのだが、これはそんな行為ではない。 宇都宮君はなぜだか、私の心臓の音を聞くとどんなに気持ちが荒れていても心穏やかになれるのだ。 小さな頃からの習慣になってしまっているのだけれど、一体いつまでこれをしなければいけないのだろう…… 宇都宮君は身長175cmだ。 私より20cmも高い。 きっとまだまだ伸びるだろう…… 顔だって幼くて女の子みたいだったのが、今では凛々しい男の顔付きになっている。 茶髪にしてるしピアスだって付けている。見た目は今風のヤンチャな感じの男の子だ。 正直、抱きつかれる私は照れるのだ。 宇都宮君は私の胸の中で安心しきったような顔をして寝息を立てていた。 ……って。 「ちょっと宇都宮君?こんなとこで寝ちゃダメ!」 「梨花の布団で寝る。」 「ダメだって!早く自分の部屋に戻ってっ!」 「無理。むにゃむにゃ……」 宇都宮君とはいつもこんな感じである。 大事なことだから2回言っとくが、私達は付き合っているわけではない。 この関係が始まったのはあの時からだった。 小学校入学を前に宇都宮君は隣の家に引っ越してきた。 「梨花ちゃーん。ちょっとこっちにいらっしゃい。」 母に呼ばれて玄関まで行くと、そこには優しそうな女性と、その陰に隠れるようにしがみついている小さな男の子がいた。 「こちら隣に越してきた宇都宮君。梨花と同い年なんだって。」 最初の印象は女の子みたいな可愛い顔立ちで大人しそうな子だなって思った。 ヨロシクねっと言ってニコっと笑いかけると、宇都宮君は大きな目をさらにパッと見開いてから、母親の後ろに引っ込んでしまった。 「ごめんねぇこの子人見知りがひどくて…仲良くしてあげてね。」 「はいっ。宇都宮君、同じクラスになれたらいいねっ。」 世間話に盛り上がる母親達とは対照的に、宇都宮君は私と目も合わそうとはしなかった。 長話が終わり、母親に手を引かれながら玄関から出ていこうとした宇都宮君が、手を振る私の腕をいきなり掴んだ。 「この子連れて帰る。」 へっ………? 「えっと…宇都宮君?梨花と遊びたいのかな?」 「あらやだ。(すぐる)がこんなこと言うなんて初めてだわ。」 静かだった宇都宮君の突然の行動に、二人とも戸惑ってしまった。 掴んでいる手の力が痛いくらいに強かった。 「じゃあみんなで公園に行く?近くにパンダ公園てのがあってね、そこにあるバネの付いた乗り物が……」 「連れて帰る。」 宇都宮君は母の言うことを途中で遮った。 どうやら自分の家で私と遊びたいらしい。 初めて会ったお友達の家に行ってもいいのだろうか…… 困って母の顔を見上げると、母も同じように困った顔をしていた。 「梨花ちゃんさえ良ければうちは一向に構わないんだけど…どうかな?」 宇都宮君はさらにギュッと腕を握って引っ張ってきた。 痛かったのだけど、すっごく来て欲しいんだなって気持ちが伝わってきて、私はちょっと嬉しくなった。
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