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宇都宮君は私の部屋で寝転がりながらスマホをいじっていた。
女の子の部屋でくつろぎすぎじゃあなかろうか……
「……宇都宮君。倒れる前に私にしたこと、本当に覚えてない?」
「またその話?記憶にないって言ってんじゃん。」
宇都宮君はピアノを弾き切ったあとの記憶が全然ないらしい。
私もあれは幻だったのではと思えてきた。
一瞬だけだったし…倒れる時にたまたまどこかに当たっちゃっただけなのかもしれない。
まあ…そもそも有り得ないんだよね。
宇都宮君が私にキスしてくるだなんて……
「梨花、ハグして。」
「また?最近毎日だよ?」
あの日以来、宇都宮君は甘えん坊になっていた。
毎日だなんて小学生以来だ。
仕方ないなぁもうっと言いつつも、まだまだ必要としてくれてることが嬉しくてつい口元が緩んでしまう。
寝転がる宇都宮君に近付くと、手を伸ばしてしがみついてきた。
可愛い……とか思ってしまった。
私の胸にピッタリと耳を付け、いつもは安心しきった顔をする宇都宮君が微妙な表情をした。
「梨花の音、最近聞き辛い。太った?」
なっ!なんて失礼なことを言うんだっ。
「宇都宮君!!世の中には女性に対して言って良いことと悪いことがあって、特に体型のことはぜっ……」
私の言葉を遮るように口を塞がれてしまった。
宇都宮君の…唇で─────……
「やっぱ今度からはこっちにする。」
宇都宮君はそう言っていたずらっ子みたいにニカッと笑った。
ちょっ、ちょっ、ちょっ………
ちょっと─────────!!
「やっぱり覚えてたんじゃない!!」
「梨花、顔真っ赤っか。面白れぇ。」
「もうっ!宇都宮君のバカっ!!」
「梨花、もう1回いい?」
「ヤダ、ダメっ。待って宇都宮君っ。」
「聞こえなーい。」
隣に住んでいる宇都宮君は、出会った時から人とは違う変わった男の子だった。
得意なこと、不得意なことの差が激しく、私は幼少期から数え切れないくらい驚かされ続けてきた。
そして…なぜだかピアノだけが天才的に上手かったんだ。
そんな彼に、私は子供の頃からすごく懐かれていた……
私はこれからもずっと宇都宮に懐かれて
理解出来ない行動に頭を悩ませるのだろう。
でもそれを仕合せだと呼べるのは
私にとって宇都宮君が
出逢うべき『糸』だったからなんだ──────
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