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最初の相手を労る目とはうってかわって、白虎王の眼差しはとても鋭利だった。
シルフォは突き刺さる視線に耐えながら、元々考えていた身の上を話し出した。
「私はシルと申します。朱陽国の孤児で、前の船に乗っていました。この船が襲撃を受け、援軍を求められたため、参上致しました」
朱陽国出身にしたのは、それが1番この船に乗っていても不審ではないから。それから孤児にしたのは、ただ単に素性を知る者がいなくても不思議ではないという理由からだ。
分かりやすく、おかしな点は1つもなかったはずだが、白虎王の顔は晴れなかった。
「前の船から? 綱も梯子もなければ、船が近づくこともなかったとの報告があるのだが」
どうやって離れた船を移動するんだと言わんばかりの白虎王。
この一言で、シルフォは白虎王が襲撃の残党かと疑っていることを悟った。
「船のマストに登って、遠心力を使って飛び乗っただけです」
「……は?」
何を言い出すのだと言いたげな白虎王に、シルフォは簡単に言い換えた。
「高いところから飛び降りて、乗り移ったんです」
「いや、そんなことはわかるが……。わかるが、可能なのか?」
聞いたことないぞとこぼす白虎王に、ヒューイは大きく頷いた。
「——実践してみましょうか?」
「いや、怪我人に無理をさせるわけには」
さらりと提案したシルフォを白虎王は却下したが、シルフォはそれが通じるような人間ではなかった。
「たしかに大きな動きはキツいですが、宙返りくらいなら楽勝ですよ」
「は?」
止める間もなく、その場でくるりと宙返りして、綺麗に着地を決めてしまった。
「いやいや、嘘だろう…」
ヒューイは思わず頭を抱え、その隣で白虎王は硬直していた。
動揺のせいで目から鋭さが和らいだ白虎王は、探るようにシルフォを見つめ、呟いた。
「怪我の措置で、ヒューイからお前が女だったと聞いたのだが……。やっぱり間違いじゃないか?」
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