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その厄介者の傘をしぶしぶ握り締めて、私は黙々と歩く。15分も行けば、小さな田んぼや菜園がぽつぽつ見えて来るほどの、けっこうな片田舎町だ。
すぐ傍を、チチッとツバメが低空で滑りぬける。
ツバメが低く飛ぶと雨が降ると聞いたことがある。このまま雨に降られ、この傘を差して帰る自分を想像するだけで、空しくて泣けてくる。
私は振り切るように、足を速めた。
ふと前を向くと、空き地の一角に、スチール製の棚やデスクチェア等が纏めて置いてあるのが目に入った。不燃ごみの回収日なのかもしれない。
ちょうどいい。私はその鉄くずの隙間に、邪魔者のピンクの傘を差し込んで、そのまま立ち去った。
―――バイバイ、どこへも届かなかった馬鹿らしい恋心。
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