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「紅葉さんは本当に鬼だったのかな……」
私は本を閉じ、校庭にある赤くなった紅葉見て呟いた。
いつの間にか夕方になっていて、夕陽が図書室の本達をオレンジ色に染めていた。
「え?」
私の呟きに小説を読んでいた彼が反応した。
「紅葉さんは本当に最初から鬼だったのかなぁって思って」
「鬼、というか鬼みたいだったから討伐されたんだろ?」
「でも、私には彼女が鬼だったようには思えないんだよね……」
本にはいかにも紅葉が悪い奴だったように書かれている。
でも、私は違う印象を受けた。
「紅葉さんはただの、美人で、博識で、とても強い人だったってだけじゃないのかなって……」
「でも、妖力を使えたんだろ?」
「紅葉さんが妖怪だったとでも?もしそうなら今この世に妖怪がいないのは何で?」
「……」
「紅葉さんはきっと元々、普通の女性だったんだよ。でも、周りがそれを変えた……」
京を追放された理由だって怪しい。
本当に、その高僧は紅葉の所為だと思ったのだろうか。
もしかしたら──……。
今考えたって、真実が分かる訳じゃないのは分かってる。
でも、どうしても考えてしまう。
もしも、紅葉が生まれた村でずっと過ごせていたら。
もしも、紅葉が経基公に見初められなければ。
もしも、紅葉が京を追放されなければ。
紅葉は、普通に暮らしていたのかも知れない。
「……紅葉がその辺の村を襲ったっていうのはきっと事実なんだろう?」
「わからないけど………」
「もし本当だったとして。それまでに何があったのか分からないけど、それでも村を襲った時点で紅葉は悪いと思う」
「……」
「ま、何があっても悪いことはしちゃいけないって事だな」
彼はそう言って小説に視線を戻した。
「紅葉さんが最期に見た紅葉もこんな風に綺麗だったのかなぁ……」
「さぁな。もっと赤かったかも知れないな。死に際に見る景色は美しく見えると言われてるから」
真っ赤に色を染め上げた紅葉を、私は見つめた。
私も、いつか死ぬときがやってくる。
その時は紅葉のように、美しい景色を見たい。
そう思った。
「そろそろ帰るか」
彼は席を立ちながら言った。
「うん」
私も本を戻そうと歴史の棚まで行った。
しかしふと思い立って、長野県の歴史が載っている本を手に取り、カウンターで借りた。
──もっと調べて、いつか紅葉が綺麗な時期に長野県へ行こう。
紅葉さんに会いに。
外では美しい紅葉がヒラヒラと舞っていた。
終
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