紅葉狩伝説

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*************************************** 「紅葉さんは本当に鬼だったのかな……」  私は本を閉じ、校庭にある赤くなった紅葉見て呟いた。  いつの間にか夕方になっていて、夕陽が図書室の本達をオレンジ色に染めていた。 「え?」  私の呟きに小説を読んでいた彼が反応した。 「紅葉さんは本当に最初から鬼だったのかなぁって思って」 「鬼、というか鬼みたいだったから討伐されたんだろ?」 「でも、私には彼女が鬼だったようには思えないんだよね……」  本にはいかにも紅葉が悪い奴だったように書かれている。  でも、私は違う印象を受けた。 「紅葉さんはただの、美人で、博識で、とても強い人だったってだけじゃないのかなって……」 「でも、妖力を使えたんだろ?」 「紅葉さんが妖怪だったとでも?もしそうなら今この世に妖怪がいないのは何で?」 「……」 「紅葉さんはきっと元々、普通の女性だったんだよ。でも、周りがそれを変えた……」  京を追放された理由だって怪しい。  本当に、その高僧は紅葉の所為だと思ったのだろうか。  もしかしたら──……。  今考えたって、真実が分かる訳じゃないのは分かってる。  でも、どうしても考えてしまう。  もしも、紅葉が生まれた村でずっと過ごせていたら。  もしも、紅葉が経基公に見初められなければ。  もしも、紅葉が京を追放されなければ。  紅葉は、普通に暮らしていたのかも知れない。 「……紅葉がその辺の村を襲ったっていうのはきっと事実なんだろう?」 「わからないけど………」 「もし本当だったとして。それまでに何があったのか分からないけど、それでも村を襲った時点で紅葉は悪いと思う」 「……」 「ま、何があっても悪いことはしちゃいけないって事だな」  彼はそう言って小説に視線を戻した。 「紅葉さんが最期に見た紅葉もこんな風に綺麗だったのかなぁ……」 「さぁな。もっと赤かったかも知れないな。死に際に見る景色は美しく見えると言われてるから」  真っ赤に色を染め上げた紅葉を、私は見つめた。  私も、いつか死ぬときがやってくる。  その時は紅葉のように、美しい景色を見たい。  そう思った。 「そろそろ帰るか」  彼は席を立ちながら言った。 「うん」  私も本を戻そうと歴史の棚まで行った。  しかしふと思い立って、長野県の歴史が載っている本を手に取り、カウンターで借りた。  ──もっと調べて、いつか紅葉が綺麗な時期に長野県へ行こう。  紅葉さんに会いに。  外では美しい紅葉がヒラヒラと舞っていた。               終
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