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「はい、これ。乾いたよ」
受け取ってみると、それは私の服だった。いつもと違う匂いがする。彼女の香りだ。
「ありがとうございます。着替えますね」
「うん」
私が着替えている間、彼女も別の部屋で着替えてきたらしい。近くを散歩するような格好になっていた。
「そうだ。外寒いかもしれないから、そのジャージあげるよ」
「え?」
「ほら、そのいかにも部屋着って格好じゃ肌寒いでしょ」
「いいんですか?」
「いいよいいよ。似合ってるし」
私は自分の服の上にジャージを着た。
「さ、送ってくよ、公園まで」
彼女は優しく微笑んだ。
「道、わかんないでしょ」
お互い特に喋ることもなく、ゆっくりと歩いていく。私が途中で彼女の手を握ったら彼女も握り返してくれた。
あっという間のような、永遠のような、そんな時間だった。
「それじゃ、ここまで」
「はい」
私は彼女の目を見て返事をした。すると彼女は私の胸元を指差して言った。
「ばいばい、『進藤』さん」
彼女が変なことを言うので私は目を丸くした。
「え?あ、これ私の名前じゃないですよ」
「しーってる。またね」
笑って手を振ると彼女は私に背を向けて来た道を歩いていった。その姿が消えるまで私はずっと立っていたけど、彼女が振り返ることはなかった。
家に帰ろうと足を進めると、すぐ側にあった雑貨屋さんが目に入った。
その軒先には、彼女が私に刺してくれたあの赤い傘が1340円という微妙な値段で置いてあった。私は吹き出して軽い足取りで帰路に着いた。
家に帰ると、私は親にバレないように急いで部屋に戻った。下の方でどこにいっていたんだとかいろいろ言っているがそれは問題じゃない。
部屋に戻って急いでジャージを脱いで並べると、私はスマートフォンを手に取った。
未来が開けている。
あの真っ赤っかな空のように。
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