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お風呂場に入ると、家にあるお風呂場とは違って、広くて綺麗な感じがした。
石鹸はいい匂いがしたし、シャンプーとリンスはブランドモノのお高いやつだ。
湯船からお湯を汲んで掛けようと思ったが、そういう手桶みたいなものが見当たらず、シャワーを出して身体を流した。
暖かいシャワーが体にしみていく。
「ちょっと、出てくるね」
外から彼女の声と気配がする。
「あー、あと着てた服、洗っとくから」
そしてまた彼女は出ていった。
身体を洗うと湯船に入った。少し熱い。天井を眺めるとゆっくりと大きなため息が出た。
「私こんなとこで…、何してんだろ」
それでも久し振りにホッとしている自分がいた。見ず知らずの人に見ず知らずの場所に連れてこられ、これからどうなるかもわからないのに、私は人生で初めてと思うくらいに気持ちが落ち着くのを感じていた。
湯船の暖かさに慣れてきた頃、頭がボーッとして瞼が重くなってきた。全身から力が抜けていく。このまま溶けてしまいそうな気がする。
「タオルと着替え、ここに置いておくね」
外からの彼女の声で我に帰った。
「遠慮しないで使ってね」
再び彼女の気配は遠のいてドアの閉まる音がした。私は気配が去るのを確認してから湯船から上がり、ゆっくりと戸を開けて外に出た。
先程と変わって、籠の中から私の濡れた服はなくなり、かわりに新品の下着と綺麗に畳まれたバスタオル、その下に明らかなジャージが置かれていた。あとはゴウンゴウンとドラム式洗濯機が回転している。
まずバスタオルで身体を拭いた。水色でレースのついたバスタオルは、思った以上にふかふかでこれもまたいい匂いがした。
次にタオルを畳んで籠に入れた後、下着の袋を開けた。なんの面白みもない黒い下着を着た自分はちょっと別人に見えた。
最後にジャージを広げてみた。私が普段着るのよりは少し大きめだ。校章らしき模様の入ったそれには進藤と書かれている。
そうか、あの人は進藤さんというのか。
その事実に一人頷くと、少しブカブカのジャージを着てお風呂場を出た。
廊下を玄関とは逆に少し歩くと、明かりの差す扉があって私は勇気を出して開けた。
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