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「お風呂、あったまった?」
シンプルな装いのルームウェアを着て、彼女はソファの上に座っている。
「髪、まだ乾いてないでしょ、おいでよ」
私はフラフラと歩いて行き、誘われるがままに座った。彼女はヘアブラシとドライヤーを取り出すと、手慣れた手つきで私の髪を乾かし始めた。
ドライヤーの暖かい風と彼女が優しく髪を撫でるのが心地よい。
「服、それでごめんね。他にサイズが合いそうなのがなくて」
「いえ、その、ありがとう、ございます」
私はしどろもどろに答えた。
「高校の頃のジャージなんだ。なんとなく手放せなくて」
声も手つきも優しくて、とても落ち着く。
「髪、綺麗だね。サラサラしてる。羨ましいな」
気を使ってくれているのだろう。でも私はどうしていいのか、思いつかなかった。
少し気まずい沈黙がながれた。
「あはは、ちょっと変態ぽいね。ごめんごめん」
私は勇気を振り絞って答えた。
「いえ、その、髪を褒められること、初めてだったから、えと、どう答えたらいいのかわからなくて」
「あはは、本当に羨ましいよ。私はくせっ毛だから朝とか雨の日とか大変でね」
「そう、なんですか」
「うん、朝はもう頭で爆発事故が起きたみたいになっちゃうし、湿気の多い日はマリモみたいにぐっちゃんぐっちゃんになっちゃうの」
ドライヤーを置いた彼女はジェスチャーでこんな感じだよ、とやって見せてくれる。
その仕草がおかしくて私はすこし笑った。
「笑った笑った」
「え?」
「よかった。死にそうな顔してたもの」
彼女はホッとしたように笑って私の髪をとかしはじめた。
「そんな顔していましたか」
「してたしてた。じゃなかったら、ほっておいて帰ったもの」
青春してるだけかもしれないしねー、と彼女は言った。
「よーし、バッチリ」
彼女が私を振り返らせた。彼女の顔が思ったより近くにある。整った綺麗な顔だった。
「それじゃ、私もお風呂に入ってくるね」
そういうと彼女は立ち上がった。改めて見るとスラッとしていてモデルみたいだ。
部屋から出る前に台所に行った後、彼女は何本かペットボトルとお菓子の袋をいくつか持ってきて、テーブルの上に置いた。
「うーん、何が好きかわからないから適当に買ってきたんだけど、好きに飲み食いしていいからね」
私は頷いて返事をし、それを見た彼女は笑顔で部屋を出ていった。
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