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「おっ、何かねそれは」
急な声に振り向くと、頭にタオルを巻いた彼女がドアの前に立っていた。
「うぇ、ぁ、えっと、その」
彼女はいたずらな笑みを浮かべていた。
「うーん、まってまって、当てるから」
あからさまに悩むポーズを取った彼女はうーんと唸った。
「猫だ!」
大袈裟に指差して彼女は言った。
「あの、あたりです」
「やったぁ!」
ガッツポーズを取ると、彼女は私を横切って座った。
「よっと、ごめんよー」
彼女の湯上がりで上気した肌と匂いにドキドキした。
「はいこれ」
そういうと彼女は強引にドライヤーとヘアブラシを渡してきた。
「よろしくね」
「へ?あ、あの」
「ほら、さっき私がやったげたし、次はあなたがやって」
彼女は私に背を向けタオルを取った。軽くウェーブのかかった茶色い髪が背中の中程まで滑り落ちる。
私は途方にくれていたが、彼女は振り返ることなく私に背を向けて座っていた。とても長い時間が流れた気がする。
ふと彼女は手を伸ばしてテーブルの上に置かれた飲み物を取って、ふたを開けて口をつける。
止める暇はなかった。
「ゴフッ、ゲホッゲホゲホゲホ……」
むせる彼女からペットボトルを受け取りテーブルに戻すと、彼女は持っていたタオルで口元やソファを拭きはじめた。
「うぇええ、なによこれー」
私は思わず吹き出してしまった。
「ちょっとー、笑うことないじゃない」
「ふふ、あの、いえ、その、ごめんなさい」
私は必死に笑いをこらえたが、肩が震えるのを止めることはできなかった。
「もう。いいから、髪乾かして」
「あ、はい」
私はドライヤーのスイッチを入れて、彼女の髪を乾かし始めた。人の髪を触ることなんてほとんどないから、自分の髪より慎重に丁寧に、を心がける。
「上手じゃない。満足満足」
彼女のその言葉は嬉しかった。その気持をバネに私は勇気を振り絞って聞くことにした。
「あの、どうして、その、私を…」
「…連れてきたかって?」
言い澱む私に彼女は続いた。
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