運命の赤い傘

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深夜2時。 草木も眠る丑三つ時に、私は一人川沿いの遊歩道をふらふらしていた。 幅200メートルはあるだろう広い川の水面に雨の作る輪っかがいくつも出来ては消える。 その様子に何だかとてつもなく心を惹かれて、その場に思わず足を止めた。 留まることをなく空から落ちてくる雨の雫は水面にあたったその一瞬だけ、ガラス細工のように繊細な輪っかを描く。 そのほんの一瞬のために何秒もかけて空から落ちてくるのだと思うと、何だかとてつもなく神秘的で儚いことのように思えた。 地球や宇宙と言った大きなものからしたら、人の一生もこんな風に見えるのかもしれない。 やはり今日の私はとてつもなくセンチメンタルだ。 大抵センチメンタルな人間の起こす行動は突拍子もない。 黒い川はその全体に雨を受けて、ゆったりと波打っていた。 日本史上にも残る有名な川だが、過去に何度か氾濫し、街や人を一瞬にして飲み込んだ前科もある。 とは言え、10年前に亡くなった祖母がまだ学校にも上がらない幼女だった頃を最後に暴れ狂う姿は見せていないので、私はもちろんのこと、両親の世代も穏やかに日の光を反射するイメージしかない。 その穏やかな川に自ら飛び込む人が後を絶たないことは周知の事実だが。
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