27人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「婆さんが俺の何を知っているというんだ。その手にはのらないぞ。人間誰しもやましい事はあるものだ。それに付け込んで金をとろうだなんて、とんだ婆さんだ。あっちへ行ってくれ。俺はそんな話聞きたくない」
「まあ、まあ、老人にそんな口を利いていいのかね。それじゃあ単刀直入に言うよ。あんた盗みを働いてきただろう」
俺はドキッとした。この婆さん何でその事を知っているんだ。十分警戒したつもりだったが、もしかして住宅の塀から降りてきたところを見られたか?ヤバい。ここで慌てたら相手の思う壺だ。俺は大金が入っているビジネスバッグを握りしめた。このお金は年老いた人のいい両親が騙されて、町金融の連帯保証人になり背負ってしまった返済にあてるんだ。
「どうだい?取引する気になっただろう。なあに、どうせ生き返った所で私は長く生きられない。そのバッグの中にあるお金、少し分けてくれればいいんだよ。そうすれば鬼が言っていた、いい話聞かせてあげるよ。どうする?」
困った。口止め料って訳か。だが今日は金持ちの家に侵入出来たので、宝石含めかなりの収益があった。婆さんに分けるのは惜しい。それに1度お金を渡したら癖になって、何度も要求されるに違いない。
「あんたの考えている事は解るよ。これでも倍位生きているんだからね。なあに、今日一度、お小遣いが貰えれば文句はないさ。もう二度と現れないよ」
俺はこのまま逃げてしまおうか悩んだ。けれど婆さんの言っている地獄の話も気になる。俺だってこんな悪い事していれば地獄に落ちるに違いない。
「幾ら欲しいんだ?」
「百万も貰えたら幸せだね」
百万か、今日の収入ちょうど位だな。俺は下唇を噛み締めた。僅かに鉄の味がして真っ赤な血の池地獄を想像させた。
最初のコメントを投稿しよう!