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「聞いてくださいよ」
皺だらけの婆さんは公園のベンチで唐突に話を始めた。
「私はね、地獄を見たことがあるんですよ。ふふふ、あんた驚いた顔をしているね。なになに夢じゃなかったかだって?夢なんかじゃない。その時一度心臓が停止したのを医者が確認してるんだ。心不全ってやつらしいよ。地獄?ああ真っ赤な血の池があってね、それはもう不気味そのものだったよ。私はね、その池で何度も溺れて鉄臭い血を飲んださ。えっ、どうして生き返ってこられたかだって?それは閻魔様の手違いだったんだろうね。気が付いた時には病院のベッドの上にいたよ」
俺はあまりにも突然な話だったので戸惑ったが、ボケた老人の戯言だろうと、適当に話を合わせていた。
「地獄には血の池の他に何かありましたか?」
「勿論色々あったさ。針の山、すり鉢、餓鬼の群れ、火炎地獄、それはもう怖かったよ。二度と行きたくないね。そうそう、いい話を地獄の鬼に聞いたんだよ」
「いい話?鬼が言っていたんですか。それは気になるな」
俺は少しだけ興味を示した。どうせ今日は仕事が終わって暇をしている。老人の戯言に付き合ってみるのも悪くない。
「ふふふ、言いたいんだけれど、鬼に口止めされてるからね。ただ地獄の沙汰も金次第って言うだろう。どうだい取引するかい?」
そうか、この婆さん俺を引っ掛けて金をとろうっていう魂胆だな。そうはいくか。
「いいよ、遠慮しとくよ、婆さん、俺は地獄なんか信じちゃいないから」
「そうかい。そうかい。でもね、私は本当に地獄に行ったんだよ。真っ赤な血の池地獄を体験してるんだ。証拠を見たい?そうか、そうか信じていないんだね。無理もない。じゃあ、これを言ったら信じるかな。私はね生き返ってきたら不思議な力を手に入れていたんだ。念を込めるとね人の過去が見れる力だよ。だからあんたが今迄行ってきた悪い事もお見通しなのさ」
なんだって?
「怖くなってきただろう。今度死ぬ時はあんたも地獄に引きずりこんでやるよ」
婆さんの皺だらけの顔はニヤリと笑った。俺は薄気味悪くなる。
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