プロローグ

4/4
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
     顔に雨粒が当たって来る。煩わしさを覚えて目を開くと、いつの間にか俺は横たわっていた。伸び放題になった下草がぐっしょりと濡れて俺の身体の下で布団になっていた。  雨が降っていた。雨が降っているにもかかわらず、空は雲一つない晴天だった。青い空から雨が、ただただ雨が降っている。  ここまで見事な天気雨は初めて見る。ぼんやりと考えてから、俺は跳ね起きた。  光る泉に落ちて、そして俺は一体どうなったというのだ。見れば周囲は草が伸び放題に生えた広大な草原だった。あの泉は森の深層にあった筈。だというのにも関わらず、見る限り木など背の低い物が少しだけ生えているだけだ。  見覚えのない景色。蒼天から降りしきる雨。異常な状況に、俺はしばしの間思考を放棄した。 「目が覚めた?」  声がする。振り返るとあの白銀の髪の少女が俺の隣に座っていた。そして「どこか痛い所はない?」と尋ねてくる。 「無い、いや、ここは?君の方こそ」  言いたい事が纏まらずに手振りを交えて答えると、少女は目を伏せて、言った。 「ここはエギル・ラーン。貴方がいたあの世界とは別の世界」  そして一瞬口を噤んで、続けた。 「降りやまぬ雨で滅びゆく世界にようこそ、幽世の人」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!