第一章 幽霊司書の友情論

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 私がこの学園に転校する少し前、良心の呵責に耐えかねた幼馴染は、本当のことを先生に告げた。  自分はクラスメイトに脅されて嘘をついたと。嘘をつかなければ、彼女がいじめの標的にされていたと。  私の処分は取り消され、内申点は見直しが入った。  担任の先生は校長先生と家にまで謝罪に来て、彼女を脅していたという何人かの生徒が停学や退学処分となった。  結果的に、彼女の告白で私は窮地を救われた。  それでも彼女を許せなかったし、心の底から軽蔑した先生やクラスメイトたちを軽蔑した。  何より、その頃にはもう教室にいることすらしんどくなっていた。  ここに至って、ようやく気付く。  彼女を憎み、嫌悪するのと同時に、半年前に上手く立ち回れなかった自分の要領の悪さを、彼女を許せなかった自分を、過去に囚われて動けない自分自身の弱さを同時に否定しているのだと。  教室に戻った瞬間、何人がさっと私を見回す。  その中でも、このクラスの比較的中心の方にいる女の子たちのグループが、自分の席に座った私を取り囲むように立った。 「ねえねえ山口さん。前の学校、カンニングがばれて退学になったの?」  これを聞かれるのは二回目だ。そして聞いたのも、昨日と同じ女の子だった。  しかし今回は質問というより、どこか確認するような口調だった。周囲の子たちも発言者に追従するように、にやにやと笑う。  昨日同じことを聞かれた時、私は固まって、何も答えられなかったけれど。 「それって誰から聞いたの?」 「え?」 「カンニングしたおぼえも、それを理由に前の学校を退学になったおぼえもないけど」  相手の目を見て、はっきりと尋ね返す。私の反応が想定外だったのか、目の前の女の子はわずかにたじろいだ。 「……誰って、誠真女子の掲示板に書いてあったし」 「書いてあったから、何? 誰かが誠真女子学園に直接、事実確認でもしたの?」  相手は少しひるんだようだったけれど、すぐ気を取り直したように私をにらんだ。 「知らないし、そんなこと」 「知らないなら、いちいち言わないで」  足が震えそうになるのを、私は意地でこらえた。それでもわずかに震えてしまう。  大きく息を吸って吐いて、声が震えないように呼吸を整えて――――私は久しぶりに、対峙する相手を真正面から見据えた。 「本当のことを知りたいなんて、思ってもいないくせに。興味本位なだけでしょ。本当に私がカンニングしたか知りたいなら、誠真女子に行くなり問い合わせるなりして調べればいいじゃん」 「…………」 「用はそれだけ? 他にないなら、どいて」
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