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同時に自分の余裕のなさを見透かされてるのが、腹立たしくも恥ずかしいような、なんともいえない気分になる。
ざっぱくらんな喋り方をするくせに、この幽霊は意外とよく人を見ている。
「あるんですか。ないんですか」
「可愛げないなあ、この優等生……」
なるべく素っ気なく返した私に、幽霊は少し興を削がれた顔でくるりと背を向けた。
「あるよ、こっちおいで」
転校初日に遭遇した幽霊……五十鈴透子と名乗る目の前の女性は五十年前、この図書館で司書教諭をしていたらしい。
本人いわく「図書館の外に出られない」らしく、確かに私も彼女を図書館の外でお目にかかったことがない。
特定の場所にのみ出没する幽霊って、何か名前があったはずだ。
そう、確か…………
「地縛霊……」
「ん? なんか言った?」
「いえ、なんでも」
とっさに首をふると、幽霊司書こと五十鈴先生は怪訝そうに「本当に?」と首をかしげる。
「まあいいや。ほら、あったよ。これなんかいいんじゃない?」
五十鈴先生は気を取り直したように、一番奥の棚の前で立ち止まった。
差された人さし指の先をたどれば、そこには一冊の文庫本の背表紙がある。
タイトルは何気なく背表紙を確認して、思わず二度見した。
『友情について』。質問そのままのタイトルである。
著者欄には「キケロー」と記されていた。
「…………キケロー?」
「プラトンの弟子」
古代ローマ時代の哲学者だと、以前読んだ『ヨーロッパの歴史』というマンガを思い出す。どんな偉人だったかすら、もはや記憶の彼方だ。
表紙にはいかにも古代ローマ人という感じの男性をかたどった、白い彫像の写真が載っていた。
一周回って新しい著者近影だと、頭の片隅でぼんやり思った。
「知ってる? 岩波文庫はジャンルによって背表紙の色を分けているんだよ。黄色は古典、緑は現文。外国文学は赤、法律や経済、政治、社会学は白。そして哲学は青」
「は、はあ……」
心なしか誇らしげな顔で、幽霊司書が使いどころの分からない豆知識を披露する。
確かに私は「友情について書かれた本」がないかと尋ねた。
でもよくある道徳倫理の本とか、友情をテーマに書かれた小説かYA(ヤングアダルト)、ライト文芸あたりをすすめられるのだろうと思っていた。
それが『友情について』というど直球なタイトルの、しかも古代ローマの哲学者の本を中学生相手に勧められるなんて、誰が予想できただろう。
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