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「…………」
ちくちくと痛むお腹に、顔が引き攣り、額に脂汗が浮いてくる。
教室へと戻る連絡通路を一歩、また一歩と、体を引きずるようにゆっくり進んだ。
教室に戻ればすぐ、五限目の授業が始まるように。
他の生徒とすれ違うたび、同じクラスの子かどうか目だけで確認していてしまう。そんな自分がたまらなく嫌で、惨めだった。
教室の扉を開いた瞬間、何人かの生徒がさっと私に気付く。
彼女たちは目配せをし合って何かをささやき合い、ひそやかな笑い声を漏らした。
好奇と侮蔑。
物言いたげな視線を避けるように、そくささと自分の席に戻る。
意識していても、呼吸が早くなってしまう。まるで胃や心臓をぎゅっとわしづかみされているような不快感に、吐き気がこみ上げてくる。
手足が指先から冷えてゆくくせに、体中から嫌な汗がどんどんにじみ出すのを感じた。
前の扉がガラリと開き、先生が入ってくる。
すかさず授業が始まって、私はようやく体から力を抜くことが出来た。
私がこの学園に編入したのは、二ヵ月前の九月。
二学期が始まるタイミングに会わせて、学校を変えた。
転校の理由は、前の学校で起きたトラブルだ。四ヵ月前の中間テストで、やってもいないカンニングをクラスメイトたちにでっち上げられられたこと。
そのことを思い出すたび吐き気がこみ上げ、ぎゅっと胃が締め付けられる。
心臓に氷を押し当てられれように、体の内側が凍えて固くなってゆく。
そのくせ恐怖にも似た激しい憎しみが、口に出せなかった言葉たちが、お腹の奥底でひどく暴れ回って今にも飛び出しそうになる。
今でも分からない。
分からないし、納得が出来ない。
どうしてあの子が、嘘をついたのか。
――――テストの最中、私が斜め前の席の子の解答用紙をのぞいていた。
四ヵ月前、そんな「嘘」を担任の先生に密告したのは、小学校の時からずっと親友だと思っていた女の子だった。
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