《あずまの想い》

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《あずまの想い》

いつものように朝を過ごし、敬大くんを大学に送り出して、空き缶集めに出かける。 渡された合鍵でアパートに鍵を掛ける。 「……」 昨日は少し驚いた。 元々、敬大くんはスキンシップが多いタイプの子だと思っていたけれど、あんなところを触られるとは… (敬大くん、相当煮詰まってるな…) 慣れない一人暮らしで、寂しさを紛らわせる為に、私に懐いてきているだけ… 手近なもので代用しようとしているだけ。 だから、大人の私が過ちを起こさないように正しく導いてやらなくては… それでも、敬大くんがくれる温もりは心地がいい。 子どもの頃、事故で指を無くして、その時に家族も亡くし、それ以来、私に優しく触れてくれるものは殆ど居なくなった。 もう、誰の手にも触れることなく、一生を終えていくのだと…そう思っていたのに… この欠けた手に、嫌なそぶりも見せず触れてくれた。汚れ濡れた私の肩を抱いてくれた。 その温かさは忘れることができない。 人の温もりに飢えて… 何気なく触れてくれる温もりを求めて… この温かさが消えないでほしい… もっと触れて欲しい…そう、密かに思ってしまっていた。 そんな意識が、余計、敬大くんを惑わせてしまったんだ。 そろそろ出て行かなくてはいけないか… いや、いつでも出て行く覚悟は出来ている。 ただ、 温かくて、居心地が良いこの場所を去るのが惜しくて… 優しい敬大くんと離れるのが惜しくて… 終わりが来ないでほしいと… 孤独に戻りたくないから… 大の大人が、敬大くんの言葉に甘えているだけなのだから。 しっかりしなくてはな…。
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