《長雨》

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《長雨》

しかし6月に入り、梅雨の時期、長雨が続くようになると、おじさんは姿を見せなくなる。 小雨なら雨具を着てランニングしていたけれど、段ボールの小屋あたりを確認しても人影はない。 心配しつつも、晴れたらまた会えるはず、と気楽に構えていた。 しかし… 降り止まない長雨は一週間以上になる。 「今日の雨、風強いな」 今までで一番強い風の吹く雨。 おじさんの段ボールハウス飛ばされてないかな… そんな心配が頭を過る。 降り止まない雨を憂鬱に思いながら、アパートでそろそろ寝ようかとまったりしていたところ。 突然携帯電話の防災アラームが鳴り響く。 『中野川が氾濫危険水位に達しました、大変危険です。河川には近づかないようにーー』 「中野川!!おじさんっ!!」 その川はおじさんが住処にしている橋のかかった川だった。 心配で、今すぐ確認に行きたかったが、傘も飛ばされそうな暴風雨、しかも真夜中… しばらくおじさんはあそこには帰っていない様子だったから、明日雨風が落ち着いてから様子を見に行こう。 おじさんの無事を願いながらその夜は眠りについた。 翌朝、早朝。 風はやみ雨は小雨になっていた。 傘をさして、おじさんの住処を確認しにいく。 途中見えた川は増水し、流れは速く土手を乗り越えそうなくらい水位が増していた。 「……」 嫌な予感しかしない。 傘を持ったまま小走りにその場所へ向かっていた。 「……うそ」 そこへ着いて愕然とする。 橋の下にあった段ボールハウスは全て水没して、泥色の川に押し流されていた。 「おじさんは?」 慌てて周りを確認する。 「あ!!」 少し下流の方に、人影が… 考える前に走っていた。 雨に濡れ、ボーっと流れる川を見つめている。
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