《可愛いおじさん》

1/1
94人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ

《可愛いおじさん》

再びアパートに戻り、水分補給をしたのち、出かける準備を始める。 「どこか行くのか?」 「このあと、バイト行くんで、これで晩メシなんか食ってください」 二千円を握らせる。 「いや、お金はもらえないから」 「ついでに朝食用のパンも何個か買ってくれたら助かるっす、種類は何でもいいっすよ」 受け取りやすいよう、用事を付け足す。 「敬大くん」 「いいから!頼みますよ!遅くなるけど、ちゃんと俺が帰るの家で待っててくださいね」 困惑するあずまの手を握り、そうお願いする。 「……」 小さく頷いたのを確認して… 「それじゃあ行ってきます!」 「あぁ、行ってらっしゃい」 心配しつつも、勢いよく手を振ってバイトに出かけていく。 そうしてバイトをこなして5時間ほどが経ち、23時半。 急いで家路につく。 しかし、アパートに明かりがついていない。 まさか、出て行った? 「ただいま!!」 急いで明かりをつけ、室内へ… 「あ、敬大くん」 暗がりの中に座っていたあずま、急に明かりがついて眩しそうにしている。 「…良かった、居てくれた」 帰ったその足で、あずまを抱きしめる。 「あぁ…おかえり、お釣りを返しておくよ。それは?」 慌てた様子を見て少し驚いている様子だったが… 手に下げたビニール袋を指して訊くあずま。 「はい、牛丼買ってきました、夜食に一緒に食べましょ」 「そうか、なら、いいか」 不意に俯いて呟く。 「ん?何スカ?」 「いや、いいんだ、それを食べよう」 チラッとキッチンを気にするあずま、確認にいくと… 「え、これは?」 鍋には野菜と肉の煮込みうどんが… 「…気にしないでくれ、絶対、店の牛丼の方が美味いから」 「いやいや、あずまさん、作ってくれたんすか!?」 「あぁ、まあ、少しでも礼がしたくて、預かった二千円で…けれどいいんだ、明日でも私が食べるから」 「いやいや、食べますよ!もちろん、火傷とかしてません?」 両手が不自由で、食材を切ることだけでも大変なはずなのに…。 俺の為に頑張って作ってくれて、帰りを待ってくれたかと思うと、否応なく胸が熱くなる。 「あぁ、大丈夫…」 「そんなことされたら、俺もう、我慢できなくなりそう」 「我慢?」 「ちょっとだけ、いやダメか、でも…」 抱きしめてキスしたい衝動を我慢できなくなってきて、一人で悶々と考えてしまう。 「敬大くん?」 「いや、落ち着け、落ち着け!」 キスしたらあずまは引いて、出て行ってしまうかもしれない、せっかく一緒にいられるものを、キスで台無しになるのは嫌だ。 けれど、この可愛いおじさんに煽られて、理性も限界に…
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!