《独りのリユウ》

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《独りのリユウ》

「君、名前は?」 「龍川たつかわ敬大けいだいって言います、おじさんは?」 「つづみ按司眞あずま47才だ、大学生一年生なら18才か…若いな」 「はい、18っす、つづみあずまってカッコいい名前ですね、あずまさんって呼んでいいですか?」 47才か、思ったより若い。 「好きに呼んでくれ、もう、名前を呼んでくれる人も久しくいない」 「じゃ、これから俺がいっぱい呼んであげますね」 「はは、本当におもしろいね君は」 3回目のシャンプーを流しながら気になったことを聞いてみる。 「あずまさん、その手…どうしたんです?」 「あぁ、これか、右手は子どもの頃に事故で失ったんだ、」 「そうだったんですか、左手は?」 何気に聞いてみたが…あずまは初めて答えに詰まる。 「……これは、まあ、あれだ…、野宿していたらライターの油を手にかけられて、燃やされてしまって、火傷をしてしまったんだ」 「え?」 「医者に行く金もなかったから川で冷やして様子を見ていたら、皮膚がくっついて動かなくなってしまってね、あれは病院に行くべきだったと思っても後の祭りだな」 少し笑うように話すあずま。 「警察は??」 それは、傷害事件だろ。 「警察は、私のような者の味方はしてくれない」 火の不始末を問いただされて、住処を追われてしまう。 「そんな、生活保護とか受けてないの?」 「最近は審査が厳しくてね、健康上問題なく、片指の欠損だけなら働けると見なされるから生活保護は受けられなかった」 「え、」 「それでも、この身体では、なかなか仕事はみつからない、運良く就職出来ても、この手のせいで酷いイジメにあう、そこは地獄だった、だから独りでいる方が心安らぐ、貧しくても…君もこんな貧相なオヤジに構わなくていいんだよ」 人と深く関わることに臆病になってしまった。 働きたくてもまともに働けない、頼れる家族はなく日々ゴミを拾い、その日暮らし、いつ命の灯火が消えても、誰にも目に止めてもらえない、そんな孤独の中で生きているのだから。 「……」 「ありがとう」 声をかけてくれただけで… そうぽつりとお礼を呟くあずま。 それから身体を流し、自分で出来ると断るあずまの髭も綺麗に剃ってあげた。
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