「僕と俺」の話

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「僕と俺」の話

さて。僕の話をしようかな。 僕は桜ヶ原にある唯一の寺の長男なんだ。 両親はとても優しくて、おおらかで、いい家庭だよ。 9つ離れたかわいい弟がいる。 離れすぎだって?当然だよ。 僕は養子だもの。 両親とは血が繋がっていない。弟ともね。 やだなぁ。そのことに関して不満があったりはしていないよ。 もう吹っ切れているし。 今は、ね。 吹っ切れる前はそれは酷かったよ。 小学3年のときに知って、先生にも同級生にも色々助けてもらっちゃった。 いや、救ってもらったって言うのが正しいかな。 一言では表せないや。 丁度その頃弟が産まれて、自分だけが他人だったって知って、両親は弟にかかりきりになって。 僕は家出をした。 両親は何も言わなかった。言えなかったのかな。 あの日のことは今でも覚えてる。 簡単な荷物だけ持って家を出た。 雨が降ってきて、行くとこもなかったから学校に忍び込んだ。 帰りたくなかった。ただ、あの「家と思っていた場所」に戻りたくなかった。 校内をうろうろしてたら裏庭に来てしまった。 そこにはもう一人の訪問者がいた。 親に怒られて家出してきた彼は、僕と同じように学校に忍び込んだらしかった。 当時そんなに親しいわけではなかった僕と彼。 でも、その時家に帰りたくないっていう気持ちを共感して、一晩中話をした。 たくさん、たくさん話をして。 最後には僕だけが泣きながら話をして、彼はただそれを聞いているだけだった。 そうそう。 最終的に落ち着いた僕たちは、丁度いい機会だからって切り株の七不思議をやってみようってことになったんだ。 ええっと、何を置いたんだったっけ? ああ、あれだあれ。 初めは、僕の弟を連れてきて置いておこうって話になったんだ。あんな弟いらないって。弟がいなければ、今まで通り家族でいられるって。 でも、心のどこかでそれだけはやっちゃいけないって言われた気がしたんだ。 結局、弟はやめておいて、僕と父と母が一緒に写った写真にした。 今はもうないよ? きっとね。写真と一緒にそれまでの「家族」を消したかったんだ。 「家族ごっこ」をしていたあの頃の家族を。 一晩経って、彼は自分の家に帰ると言った。謝るんだって。 僕は…まだ帰れなかった。 それはそうだと言って、彼は僕を自分の家に連れていった。 彼は、まず自分のことを謝って、僕のこと(養子等混み入ったことは除く)を話して。一晩だけ、何も言わずに匿ってくれた。 一晩だけだよ。 たったそれだけだって?うん、そうだよ。 彼の家には「一晩だけ」お世話になった。 僕の家出は1ヶ月続いたんだけどね。 連絡網って今でもあるのかな? クラスで順番に電話で連絡事を回していくの。 彼ね、それを使って同級生に僕のことを話したんだ。 「一晩だけ○○君を家に泊めてあげて。 ○○君の家の人にはバレないようにして」 ってね。 だから、僕はその夏、同級生の家に一晩だけお泊まりするっていう日記を書いた。 結局のところバレバレだったとは思うよ。 でもね、同級生たちも僕もバレてないって思ってた。 だって、その「秘密」のメンバーの中には担任だったあの先生も含まれていた。 先生は僕たち側、共犯者だったんだ。 これは確実だよ。 だって、両親から「あの先生は結局最後までお前がどこにいるのか教えてくれなかった」って、家に帰ったときに言われたんだから。 今じゃあり得ない話だよね。 笑いながら人を騙して、傷つけて、不幸を喜ぶような御時世だ。 他人も、家族だって信じることが出来ない時代だ。 そんな時代が僕は嫌い。 桜ヶ原の地元の人たちはみんな仲がいい。仲というより、もう地域の繋がりが強固なんだ。悪く言うと閉鎖的とも言えるかな。 特に信頼関係が強いんだ。 僕と、僕の同級生たちは特に繋がりが強いと思う。 そうじゃなきゃ、先生から教えてもらった七不思議の解明なんてしないよ。 命懸けだもん。 余計な話が長くなっちゃったね。 これが僕の七不思議・一つ目の話だ。 いや、ごめん。 これが初めての七不思議・解明の話だよ。 僕は学校の裏にある切り株の上に家族写真を置いた。 その写真は一晩で消え去った。 僕は七不思議の一つ目を使った。 カウントが一つ減った。
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