第一章《1》 魔法使いの弟子

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「字を書けないなら、書けないって言ってほしかったけど」  不満げに呟いたリズルだが、次の瞬間、軽く目を見張る。 「――契約できるね。これは字なのかい? 見たことがない。どこの国の字なのかな」 「私が生まれ育った、祖国の字。私の名前は、まゆり。まゆり・サクラノ」 「ふむ、まゆりか」  リズルは羊皮紙を膝に置くと、ペンを消して、銀のナイフを取り出した。まゆりの手を取り、親指に切っ先を添わせる。ちりっ、とした痛みのあと、赤い血がぷっくりと盛り上がり、羊皮紙にぽたりと落ちた。  リズルもまた、自らの親指に傷をつけて、羊皮紙に血を垂らす。 「くっつけて」  促されて、首をかしげる。  リズルは苦笑して、血の流れる親指同士をくっつけた。二人の血が混ざって、羊皮紙のうえに、ぽたりと落ちる。  その瞬間、身体を何かが駆け抜けた。まるで、大蛇が体の中をぐるぐるとうねっているかのように、自分ではない何かが侵入している違和感がある。  だが、そんな違和感もすぐに去り、呆然としているうちにリズルは己の指を離して、羊皮紙をどこかへ消した。 「はい、契約成立。これで、きみは正式に私の弟子だよ」  にっこりと微笑むリズルを見返して、まゆりは頷いた。  正直なところ、まだ思考が追い付かないでいた。  ただ、今を理解するのに、必死だった。
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