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「……ない」
今日もまた雨が降り、帰ろうとしたとき。傘立てにあるはずの斎藤の傘がなくなっていた。どこを探しても傘がない。誰かが間違って持っていった可能性はないだろう。ブランドモノの洋物の傘は、ひどく目立つ。
どうしてかと考えていると、後ろからコソコソと声が聞こえた。後ろを振り向くと、斎藤に告白してきた女の子と、その取り巻きがサッと顔を逸らす。
それだけで斎藤はわかってしまった。中学生にもなってそんな幼稚なことをする奴がいるのかと、逆に驚きがくる。
「……あのさ」
「なに、斎藤くん」
女の子が可愛らしく笑いながら返事をした。シラを切りとおすつもりだろう。はあと、ため息をつく。そして斎藤は女の子に近づくとその横の壁を思い切り蹴った。
「……え?」
「もう二度と俺とかかわるんじゃねえ」
パラパラと壁からコンクリートがはがれて落ちていく。
女の子はへたり込み、呆然としている。そしてワンワンと泣き始めた。
周りの友達が「クソ野郎!」「ホント酷い奴!」と口々に罵っている。
「そんなんだから父親がいないんだよ!」
それが罵倒になると考えている女の子が、ひどく馬鹿らしく思えた。
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