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とりあえずゴミ捨て場を探すが、傘はなかった。校舎裏にもなく、紛失物で届けられてもなかった。探している間に雨はさらに激しく降り始め、窓に雨粒が張り付く。
もとはといえば全て西浦が悪い。あいつが女の子に気付かなければ、あいつがあんなことを頼まなければこんなことにはならなかった。今ここにいない西浦に呪詛を吐きながら、斎藤は校内をくまなく探す。
しかし傘は結局見つからなかった。
「……ねえか」
校内に耳慣れたメロディーが流れはじめ、帰宅を促し始める。
斎藤は今日何度目かのため息をつくと、昇降口に向かった。
ないものはしょうがない、諦めるしかない。
けれどあれは唯一、斎藤とあの人の間に残された思い出だった。
こんな雨の日、斎藤はあの人と一緒の傘で外に出た。
スーパーによって、お菓子を買ってもらって、一緒に食べた。
そんな、どうでもいい思い出。そんな思い出しか、あの人の間にはなかった。
靴箱で靴を履き替え、玄関にでる。雨は止まず、土砂降りの雨が校庭に水たまりを作っている。斎藤の気持ちと同じように空は曇天だった。
この中を帰るのは、本当に憂鬱だ。雨の中に足を進めようとしたそのとき。
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