ワンコイン

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 かれこれ三十分ほど、僕は駅の改札を出たすぐのところで、外の景色を見ながら待ちぼうけを食らっていた。つい数分前に、なんとなくぽつりぽつりと降りはじめていた雨は、すっかり今では本降りになって、無数の銀色の矢のように降りそそいでいる。天気予報では雨が降るなんてこれっぽっちも言っていなかった気がする。気がするというか、きっと言っていなかったのだろう。さっきから僕が居る駅舎の方へ駆けこんでくる人々が、みな傘の「か」の字も持っていないところからして、この雨がいわゆるゲリラ豪雨的なやつだということは想像に難くない。もちろん、僕だって傘など持ってきていなくて、待ち合わせ場所の最寄り駅に着いたはいいものの、駅舎から外に出ることができずにいる。  もっとも、僕がこの場所を動くことができないのは、それだけが理由ではない。そもそも待ち合わせ時間は三十分前だったはずなのに、未だに待ち人が来たらず……という状態が続いているからだ。
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