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僕が、待ち合わせ相手である浅野美玲と出会ったのは、僕の交友関係の中でも数少ない、いわゆる「陽キャラ」にカテゴライズされる友人から「なあ池澤、もうすっかり夏じゃないか。というわけで外でバーベキューすんだけど来ない」という、脈絡もへったくれもない誘いを受けて、他人からの誘いを断ることができない僕がノコノコとそこに足を運んだことがきっかけだった。
無論、宴が始まると程なくして一同はアルコールですっかりご機嫌になっていき、僕は一人所在なさげに焦げた肉や野菜を胃に送り込んだり、クーラーボックスからビールの六缶パックを、聞くに堪えない話題で盛り上がるテーブルに輸送する黒子の役割を果たすことになったわけだが、とりあえず肉も野菜も美味いし、だんだんと誰がどの肉を焼いていたかなんてことがどうでもよくなりはじめたタイミングを見計らって、ひたすら最近金欠で足りなくなっていた動物性蛋白質を摂取する作業に勤しんでいた。
「なんか、みんな、すっかり楽しくなっちゃってますね」
赤みがほぼなくなったカルビを(もういいべか、これ)などと考えつつひっくり返そうとしていたところに、美玲は話しかけてきた。肩につくかつかないかくらいの長さの髪はゆるく巻かれて、ホワイトメインの大人しい服装に身を包んでいた。外でよく焼けた肉を食っているより、カフェでコーヒーを飲みながらミルクレープにフォークを入れている方が似合う感じの、大人しそうな見た目の子だった。
僕は肉をつまみ上げようとしていた箸をひっこめて「あぁ、もうあそこまではついてけそうになくて」と、曖昧に笑いながら、半分ほど残ったビール缶に手を伸ばす。
「正直、わたしも。だからちょっと落ち着ける場所を探してたんですけど、ご一緒していいですか」
「どうぞ。今なら好きなもの、なんでも食べ放題だから」
テーブルを一瞥すると、中途半端に食い残されたものが残った皿と使用済みの箸しか転がっていなくて、僕は傍らに置いていた新品の紙皿と箸を差し出した。
iPhoneの音量を最大にしながら、知らないバンドか何かの動画を食い入るように観始めたその他大勢を尻目に、僕と美玲は自己紹介がてらに、他愛もない話しに花を咲かせた。美玲は僕と同い年で、趣味も僕と同じ読書であり、今日は他の友人に連れてこられたということと、さっきまでは女側のグループで僕と似たような役割を担っていたということも教えてくれた。
「まあ、わたしはそういうの嫌いじゃないんで、いいんですけどね。自分のしたことで誰かが喜んでくれたら嬉しいし」
「ああ。まあ、わからなくもないかな」
「ですよね。自分も楽しんだらいいのに……とか言われたりもしますけど、なんだかんだ、口に出して『ありがとう』とか『サンキュー』とか言われたら、気分はいいものですよね」
「いやあ、よくできた人だ。僕みたいにこれ幸いとタダ飯を食おうとしてる奴とは大違い」
「あはは」
美玲はカシスオレンジとかそれ系の缶チューハイを手にしていた。それほど飲んでいないのか、はたまた酒には強いのか、ほとんど顔色はシラフにしか見えない。僕はといえば、僕が酒を飲み干すたび、美玲が甲斐甲斐しく新しい酒の缶を手渡してくれるので、少しばかり酔いが回りはじめていた。
とはいえ、だからこそ心のリミッターも外すことができるというものであり、そうでなければ僕が「よかったら今度、書店巡りでもしない。あと、もう敬語はいらないよ」という言葉をかけることもなかっただろう。
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