月曜ロードショー

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 桐ヶ谷(きりがや)(けい)を父が拾ってきて、早一週間。  人懐っこい性格の恵は他の住人とも打ち解け、楽しくやっているようだ。  とはいえ現在月曜館で暮らしているのは、七瀬と七瀬の父、武士ともうひとり、父が趣味で経営しているバーのマスター、それから恵も入れて全部で五人だけだ。それも武士とはタイミングが合わず、スウェットを借りた日から顔を合わせていないらしい。仲良くしているのは主に七瀬の父と、バーのマスターである。年上の男(社会人の彼女のマンションで寄生生活を送っていたことを思えば、男にも、と言うべきか)に可愛がられるタイプのようだ。  スウェットを借りっぱなしになっていることに気を揉んでいるらしく、今も夕食のブリの照り焼きを大人しく食べつつ――いや、大人しくではない。毎回七瀬の料理を手放しで称賛しつつ、「俺、魚より肉が好き」とアピールしてくるようになった。図々しいことだ――玄関の方を気にしている。  まだ時間は19時を少し回ったところだ。  武士の帰宅は大体いつも22時過ぎで、下手したら日にちを跨ぐこともざらにある。気にしたところで無駄だろう。  恵はといえば、真面目に学校に行っているのは本当らしく、12時にはおやすみの時間である。  返しといてやるよと言ったが、直接お礼を言いたいからと断られてしまった。ちゃらんぽらんな男だが、こういうところがお育ちの良さだ。意外と律儀で礼儀正しい。そういうところが父も気に入っているのだろう。女に対してはクズだけど。 「そうだ。あのさ、七瀬さん、明日バイトが6時からなんだけど、夕飯、少し早めに用意してもらえたりする?」 「バイト? バイトなんかしてたのか?」 「はじめるの。一昨日、面接行ってきたんだ。……自分で下宿代払うって父さんとの約束だし」 「ふうん」  父親からだと言って恵が菓子折りを持ってきたのは数日前のこと。  家族に居所をきちんと報告することを条件に、月曜館を仮住まいとして提供する話だったが、またひとり暮らしをさせては何をやらかすかわからない。このまま正式に下宿をさせてほしい、という話になったようだ。  偉いじゃないかと感心しそうになるが、よく考えるまでもなく、わりと普通の話だ。危うく褒めそうになったが、「まあ、それが普通だけどな」と素っ気ない言葉に切り替える。  元々都内とは思えないほど良心的な下宿代だが、そこから父が「学割だよ~」と更に色をつけたため、食事代を入れたって学生のお小遣いでも十分払える金額なのだ。 「わあ、七瀬さん厳しー」と恵が苦笑したとき、玄関の引き戸の音が聞こえた。  誰かが帰ってきたようだ。
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