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「で、何なんだ、これは」
相変わらずムスッとした顔のまま。
午前〇時を過ぎたのを見計らって、すぐ向かいに住む幼なじみをメールで玄関先に呼び出せば、憮然とした表情で見下ろされた。
こういうとき、頭ひとつ分は優に越える身長差が憎くなる。
「だから……誕生日プレゼント」
毎年、何をあげても――勿論あげなくても――反応の薄い幼なじみに対するささやかな報復の意味も込めて昼間見た冴えない花を綺麗な紙とリボンで飾り立ててみた。
それを「おめでとう」という言葉とともに差し出せば、意外にも秋連は驚いた顔をした。
「お前がそんなに博識だったとはな」
次いで、感嘆とも取れる声音でそう言われて、忠成は思わずきょとんとしてしまう。
その表情を見て、秋連が呆れたように溜め息をついた。
「まさか知らずに摘んで来たのか?」
そこまで言って、
「だとしたら……嫌がらせのつもりだったのかな?」
彼にはあるまじき言葉遣いで優しい笑みを向けてくる。それが逆に怖くて、忠成は思わずしどろもどろになった。
「いや、その……何かその花見てたらお前の顔が浮かんで……」
動転の余り、口が裂けても言うまい、と思ったことを口走ってしまう。
言ってから「しまった」と思ったけれど、夕方想像したような反応は返ってこなかった。そればかりか――。
「お前は時々怖いことを言うな」
よく、秋連から「お前は勘の良さだけは動物並だ」と言われることがあったが、そのときの口ぶりはそう感嘆されるときのモノと似ていた。
「――え?」
だから思わずそう問い返してしまう。
「知らなかったようだから教えるけどな、この花、男郎花って言って……10月3日の誕生花なんだ」
つまりは、秋連の誕生花であるということ。
この花を見たとき、一瞬ふとこの腐れ縁の友を思い出したのも、まんざら間違いではなかったと言うことか。
秋連からの告白にふとそんなことを思ってから、忠成は自分の生まれた日の誕生花はなんだろう?とぼんやり考えていた。
End
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