陽だまりの香り

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 幼稚園の行事で、近所の畑で芋掘りをすることになった。  (うら)らかな日差しの(もと)、園児たちの笑いさんざめく声があちこちから聞こえてくる。 「あきちゅら、ほらないの?」  そんな中、一人畑に入らず突っ立ったままの秋連(あきつら)を見て、忠成(ただなり)が駆け寄ってきた。  先程までは「アキ君も行こう?」としきりに誘っていた先生も、他の子に手を引かれて今は彼の傍に居ない。  その様子に、秋連とは違う組に属していた忠成が気付いたのだ。  足元に茂るイモの茎をぴょこぴょこ飛んでは避けながら、息を切らして秋連のクラスの畑に近寄ってきた。  そんな忠成に、 「よごれる……」  ムスッと膨れっ面をしてそっぽを向く秋連。  秋連の着ている犬柄のスモックは、初めて着るおニューの品で。母親が楽しい芋掘りになるように、と今日おろしてくれたことが逆に(あだ)になってしまった。真新しいスモックを汚したくなくて、秋連は畑に入れない。  そんな幼馴染みを見て、忠成がきょとんとする。 「よごれても洗ったらキレイになるよ?」  見ればすでに全身泥まみれの忠成。  彼のスモックに縫い付けられた白い羊のアップリケは、見事なぐらい真っ茶色に染まっていた。  そんな友人を無言で見詰める秋連。  その沈黙に焦れた忠成が、行こう?と言って秋連の手を取ろうとした瞬間、秋連は反射的にその手を払ってしまった。  忠成の手が泥まみれだったから。
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