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「樹くん、大好き」
そう言いながら俺の腕に飛びついてきたのは幼馴染の真菜だ。
鬱陶しい。
そう言って彼女の手を振り払い、突き飛ばして、走って逃げた。
そっと振り返って彼女を見ると悲しそうにこちらを見ていた。
……これでいい。
幼馴染の真菜との付き合いは、十年以上にもなる。
今まで仲のいい幼馴染だったのに、彼女は急に俺を好きだと言い出して、距離を縮めてきた。
触るな、近寄るな、気持ち悪い。そんな罵倒の言葉を彼女にぶつける。
俺は彼女ことが嫌いだから……--
彼女には悪癖がある。
自分を好きな人間のことを好きになれないのだ。
真菜が好きだ好きだと言って追いかけていた相手が好意を返してきたら途端に冷めてしまう。
一途に想ってくれる真菜のことが好きだと返事をされた瞬間にどうでも良くなるのだ。
だから彼女は恋人が出来てもすぐに別れてしまう。
「だって、私のこと好きだなんて言うんだもの」
それが彼女の口癖だった。
片想いをするのが好きなのか、誰かを追うのが楽しいのか、それとももっと別の感情なのか。分からないけれど、これは彼女の悪癖だ。
自分のことを好きになる人のことは好きになれない。
「樹くん、大好き」
彼女に好かれるために、今日も俺は彼女のことを嫌ってる。
「鬱陶しいから近寄るな。あっち行ってろ」
そっと距離を置くと寂しそうにする彼女があった。
これでいい。
これでいい……。
愛しい人へ。
これがあなたを嫌いな理由です。
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