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そして翌日、俺は、郵便局をクビになった。
「君の家で人殺しが起きたそうじゃないか」
妖精使いの局長は、生真面目な声で言った。クビの理由を訊いたらそう答えたのだ。
昨晩から寝ていないんだ、大事にしてたレイヴンもみんないなくなった。立て続けに悪い知らせを耳に流し込むのは頼むからやめてくれ。
「殺したのはオレじゃない……!! 黒い服の男が」
「すまないが、説明はいらない。君が人殺しをしたかどうかは問題じゃないんだ。君の家で死んでいたのが強盗殺人で手配されていた犯罪魔術師集団だった、ということが問題なんだよ。普段はレイヴンに化けていたそうだが、長年君が彼らの世話をしていたんだろう?」
「そんなこと、知らなかった!!」
オレは叫んだ。
「ただのレイヴンだと思ってたんだ!!」
局長の肩の上に座っていた妖精が大きな声に驚き、顔をそむけて飛び立った。局長は目をすがめる。
「魔力の気配に気づかなかった、と君は言うのかい? うちの顧客は高い機密性を求めて郵便配達サービスを利用している。配達員が犯罪者集団をかくまっていたとなれば、重要な書類を安心して任せられないと感じる人も出てくるのさ。悪いが、これまでだ」
ぽんと渡されたのは退職金。
茫然とてのひらの上の包みを見て、オレは蒼白になった顔を上げた。
「なんとかならないんですか。オレ、仕事がないと、……配達が無理なら、雑用でもなんでもします」
「そうはいってもねえ……君、何か魔法は使えるかい?」
局長は首のうしろをかきながら言った。オレは言葉をなくす。
局長はうなずいて、白々と言った。
「ああ、……だからレイヴンに化けていた魔術師たちにも気づかなかったんだね。珍しいね。魔法使えないの……」
「……」
俺は黙って帽子をとり、戸口に向かう。後ろから呼び止められた。
「待ちたまえ。君はこれから警察で取り調べを受けることになっている。迎えが来ているよ」
曇る目を上げると、戸口に立っている制服姿の警官が目に入った。オレはぼんやりとそれを眺める。
のろのろと警官について局を出れば、人がじろじろと警官に付き添われるオレを見る。
その目を避けて空を見上げれば、虚ろな灰青に曇っている。
「テノ!!」
せっぱつまった高い声に振り返った。ふわふわした小さな茶色い影が重たい郵便物を頭の上にのせたまま血相を変えて、後ろで叫んでいる。
「師匠……」
「どこいくの!? だいじょうぶ!?」
オレはちょっと立ち止まって、あいまいな微笑みを返した。
「すぐ戻るよ」
「ほんとう!? やくそくだよテノ!」
「うん、大丈夫だから」
微笑んでそう言う言葉の端から涙で視界が滲みそうだ。警官に促されて立ち去りながら、オレは涙がこぼれないように天を仰ぐ。
なんでだよ、畜生。神様、オレが何をした?
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