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そして4月、春休みも終わりかけた頃、大口の宴会の予約が入った。息子の学校の教師たちによる新任の教師と他の学校に異動する教師の歓送迎会である。東日本大震災のこともあって自粛案も出たが「自粛ムードも良くない」と、校長先生の提案により開催の流れとなった。
教師たちは代車サービスやタクシーの準備済なのか酒を浴びるように飲む。皆、顔を真っ赤にして蟒蛇のように酒を飲む。教師という仕事はストレスが溜まるのか酒でも飲まないとやってられないのだろう。私はそれを微笑ましい表情で眺めながら酒にあう料理を作っていく。
そして、注文終了の通告をすると真っ赤な顔をした教師が茶封筒からお札を出して会計を済ませようとした。
「出る時で結構ですよ」
「いやぁ! 忘れてしまいそうなんでぇ! 今のうちに払っておきまさぁ!」
教師は完璧に酔っている。注文終了でこれ以上注文もないことから会計を済ませることにした。教師が懐から封筒を出して口を開けた瞬間にはらぁりと千円札が羽根のように揺れながら床に舞い落ちる。
「箱から出す時にもぉ! よぉく落ちるんですよね! ガハハハ! ぶぁかやろう! ガハハハ」
「はぁ、そうなんですか」
私はその千円札を拾った。野口英世は拾い上げた瞬間に表情が泣いたものに変わる。ああ、まだこんな遊びやるなんて先生たちもお茶目なところがあるんだな、そんなことを思いながら千円札を渡そうとすると右端に折り目の感触があることに気がついた。その折り目を軽く触り曲げるだけで犬耳の形となる。
私は確信を覚えた。
あいつらは人の善意を吸って真っ赤になった蛭だ。その蛭の口は真っ赤な嘘を吐く。
そして真っ赤な蛭はいつの時代にもいる。許されたものではない。
おわり
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