赤いリップグロス

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「ああ、大丈夫だよ。僕は遅刻なんかしないから」 真面目な性格は父に似ているのだろう。学校を休んだり、遅刻する事は小さな頃から殆ど無い。トーストを齧りながら家を出ると、僕は学校までの距離を重い足取りで歩く。今日は体育がある日だ。体育がある日は一番嫌いだ。皆が僕を無視しているので、バスケットボールの授業の時なんかはパスしてくれる人も、パスを受け取ってくれる人も居なかったし、それは野球やサッカーの時も一緒である。全て僕が存在していない様に扱われるのだ。 学校行きたくないな。 僕は胃が痛くなるのを感じた。だんだんとそれに吐き気も加わる。 それでも我慢して学校に着くと、階段を登って2階の自分の教室に入る。窓が全開になっていて少しばかりの風が入るが、それでも暑い。だがクーラーは8月に入らないとつけてはいけない決まりがある。僕は持っているノートを団扇代わりにしてあおいだ。 「おい。飯田、飯田青空、風がこっちに来るだろう、気持ちが悪いから止めろよ.」 同じクラスの成沢大樹君だ。大樹君はいじめグループの仲間である、無視するだけではなく、攻撃もしてくる男子だ。外見はとても良く、女子にも人気のイケメンなのだが、何か世間に不満があるのか何時も不貞腐れたようにしていて、僕の必死で作っている縄張りにも平気で侵入してくる。 「気持ちが悪いってなんだよ」 僕は少しばかりの抵抗の言葉を言いながら、ノートであおぐのを止めた。暑くて汗が滴り落ちそうになる。 「気持ちが悪いから、気持ちが悪いって言ってるんだよ。何か僕に文句があるのか?」 大樹君が僕の机の上に勢いよく手を置くと身体が反射的にビクッとした。クラスの皆がこちらを向く。
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