41人が本棚に入れています
本棚に追加
もっと化粧をしてみようかな。
母の部屋に入り、勝手に化粧道具が入ったポーチを戸棚から出す。ファンデーション、マスカラ、アイシャドー、チーク。だいたい使い方は解る。僕は何の気なしに化粧をしてみた。すると思いの他、難しい。
30分も化粧品と格闘しただろう。僕の顔は驚くほどに可愛く美人に仕上がった。ますます自分に見とれてしまう。そうだ、母はウイッグも持っていた筈だ。そう思い箪笥の中の引き出しを開けると、茶色のパーマが掛かっているセミロングのウィッグを見つけた。それも被ってみる。ついでに、水色のワンピースも着てみることにした。僕は身長が高いので似合わないかと思ったが、母の持っていたオーバーサイズの服は簡単に僕の身体に馴染んだ。
驚いた。自分ではないみたいだ。
だが、何時まででもこんな格好をしていたのでは、仕事から帰った母に見つかって怒られてしまう。僕は記念に持っていたスマートフォンで写真を撮ると、化粧を落とした。洗面所に忘れてあった赤いリップグロスは貰っておくことにした。この赤い色が何だか嫌な現実から離れられるような気がしたからだ。
それから僕は何か嫌な事がある度にその写真を見て現実逃避をした。
土曜日も母はデパートの仕事がある。僕は母が出掛けた後、暫くは勉強をしていたのだが、直ぐにやる気が無くなってしまい、机の引き出しから例の赤いリップグロスを取りだした。
また化粧をしてみようか。
誘惑にかられ、僕はまたもや母の部屋に忍び込んだ。この前と同じ手順で化粧をしていく。今回は前回より簡単に化粧を行う事が出来た。ウィッグを被り、自分の顔をよく見る。女の子に産まれるべきだったのかな。変な考えが浮かんでくる。
最初のコメントを投稿しよう!