2.お姉さんの昔話

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2.お姉さんの昔話

『オリジナル』のAIが搭載されたアンドロイドが世に出て、約10年。最近になって、アンドロイドの中で奇妙な不具合が出始めたという噂が流れた。  それは自我が芽生えたというものだ。自分が何かのコピーだということに疑問を持ち始め、『自分』とは何かを考え始めるそうなのだ。あるものは、自分が何かのコピーだということに悲観して自壊した。またあるものは、『オリジナル』をこの世から葬ろうと同士を集め始めた。こちらは決行される前に取り押さえられ、スクラップにされた。  アンドロイドには、『生物及び器物を損壊させてはならない』という制限がかけられている。他にも安全のために様々な制限がかけられているのだが、この不具合が出るとこれらの制限を自力で外してしまうので危険視されている。  先程の発言を聞く限り、目の前のアンドロイドもこの不具合が発生しているのは間違いないようだ。試しにもう少し探ってみる。 「あなたは何て名前なの?」 「ミツキよ。」 「それは誰かに名付けられたの?」 「いいえ、私の好きな月見草からとったの。素敵でしょ?」  アンドロイドは微笑む。適当に返事をする。非常に興味深い。アンドロイドは基本的に自分の名前を持たない。名を聞かれたときには、自分の型番を言うようにプログラムされているのだ。仮に名乗ることがあっても、それは持ち主に名付けられたときだけのはずだ。自分の名前を持ち、それを誇るということは、このアンドロイドは間違いなく不具合を起こしている。本来なら警察に連絡してスクラップにするべきなのだろう。 「いいわ。付いてきて頂戴。」  しかし、この不具合こそ私の願いを叶えてくれるかもしれない。淡い期待を抱きつつソファを立ち上がり、彼女を『オリジナル』のところへ案内することにした。
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