洋館のはこ

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 何度かはじめは来たことがあるものの、この洋館のニ階、三階には上がったことがなかった。  はじめが何度か訪れる際に、見取り図を作成したことがあった。緻密(めんみつ)さがない見取り図を柿谷に渡す。  柿谷は真剣に、その図の奇妙さを感じずにはいられないでいる。思い切ってはじめに問いただした。 「なんだよ、この見取り図。配置がめちゃくちゃだぜ。意味、あんのか?」 「そんなの家に帰ってから、思い出して書いたものだから、でたらめだゾ」 「何だよ、それ……意味、なくね?  ゴミなんてよこすなよ」  ある程度一階の部屋を見回した。何もないことで、はじめ以外ホッと胸をなでおろしている様子だった。 「大きな箱って、ニ階なのかな?」  と、柿谷は呟いた。  上がるのは初めてとなる階段を、先頭に立ってはじめは、歩き始めていた。  踏み段を上がるたびに、独特の(ゆが)みの音が聴こえてくる。はじめ以外みんな、不安な顔つきをしていた。何が出てくるかわからないような洋館を、ぞろぞろと足並みをそろえムカデが這うように上っているからだ。 「そんなにくっつくなよ! 暑苦しいだろ!」  右腕にしがみつきながら、柿谷はあたりを警戒するどころか、怯えながら上る。 「だってさ……なんか、出そうで」 ―――こいつら、幽霊でも出ようものなら、一目散に逃げそうだな……  柿谷は四年生の時に、転入してきた。それ以来五年生、六年生と一緒のクラスだ。しかし、柿谷がこんなにも臆病(おくびょう)だったのかと、はじめはこの時はじめて知った。遠足や移動教室でも、一緒の班になったことがあったが、全く気がつかなかった。
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