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「へえ。彼女、ずいぶん若そうだけど、学生さん?」
「ええ、大学生ですよ」
「名前は?」
「小鳥遊さんです」
「これから彼女が黒谷さんの代わりに入るの?」
「ええ、黒谷さんのシフトそのままです」
川野はそう答えながら、手際よく商品をレンジに入れて温め始める。
黒谷と同じシフトということは、毎週土曜日の昼から夜にかけてと、日曜日の昼から夜にかけての時間帯ということだ。それは僕にとっては少し面倒なことだ。その時間帯は、僕が一番コンビニを利用する時間だ。つまり、僕のことを知っている人間がいなくなって、知らない人間が入ってきたということだ。そうなると、小鳥遊がレジに立っているとき、僕はわざわざタバコの銘柄を告げなければならないし、なれるまでは川野と会話するように気軽に話すことだってできないだろう。
とはいえ、見た目も悪くない小鳥遊と少しでも接点を持てるのならば、それはそれで悪くない気もする。もちろん、彼女がこんな三十を目前にした冴えない男を相手にしてくれるとは思っていないが、何の接点もなければ、何も始まることはない。もしもあんな恋人がいたら、僕の休日ももっと違ったものになるだろう。とはいえ、そんなのは夢を見すぎだ。そんなことを考えていては、さっきニュースで見たストーカー男と同じになりかねない。
僕がそんなことを考えている間に、弁当が温まり、川野が手渡してくれた。僕は弁当の入ったビニール袋を提げて家へと戻った。
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