中身がなにかはお楽しみ!

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中身がなにかはお楽しみ!

「ふー、買ったねぇ」  百貨店のエスカレーター脇に設置されているソファ。美雪の横、座って背もたれにもたれかかって息をついたのは、オレンジがかった明るい色の髪をおろした親友だ。 「大漁だよー」  美雪の言葉と声も満足げになる。二人の横にはショッパーがいくつも置いてあった。どこも服や雑貨の店のものである。  今日は夏のセールにやってきた。セール品なんて、良いものからなくなってしまうに決まっている。よって、初日の土曜日、それも朝一番で店に突撃してきたというわけだ。  その成果あって、気に入るものをたくさん見つけ、手に入れることができた。  美雪が買ったのはキャミソール一枚にカットソーが二枚、羽織もの、そしてスカート、ワンピース……小物に及べばほかにも色々と。  30%、50%オフになっていようとも、高校生の身としては豪遊といえるほどの量であった。  けれどそのぶん、この夏の服はこれでおしまいにしておくつもりであった。去年の服も、まだ着られるものはいくつもある。  組み合わせて着まわそう、と思う。せっかく制服から解放される約一ヵ月であるのだ。好きな服を堪能したい。  夏休み、お金を使いたいシーンなんてありすぎる。この親友と、ほか何人かの友達と行こうと言っていた花火大会も、テーマパークも、ほかには家族で旅行の予定もある。盛りだくさんだ。  だから服の買い物はこれでおしまい。ほしいものがあっても、秋まで我慢だ。 「あゆ、ちょっと休憩しない?」  隣の親友に声をかける。名前を呼んで。  親友、あゆはすぐに嬉しそうに頷いた。 「うん、お茶飲もうよ。あっ、タピオカのお店が地下にできたんだよね。見てみない?」  流行に明るいあゆは、既にチェック済みだったらしい。数ヵ月前にオープンした、タピオカミルクティーのお店。名物はカラフルなタピオカであるらしい。 「いいね。行こうか」  疲れた足を休めてくれていたソファに少し未練はあったものの、ショッパーを手に取る。荷物を忘れないように確認してから、エスカレーターへ向かった。  次々に階を降りていく。降りていくうちに、あゆが「あ」となにかに気付いたような声を出した。 「こないだ『オッケーちゃん』の新しいの出たんだった! もう置いてあるかも。見ていい?」  あゆが見止めたのは雑貨屋だった。バラエティグッズがメインの、ごちゃっとした雑貨屋。たまに入ることがある店だった。 「新作? どーゆーやつ?」 「夏バージョンなんだよ! 浮き輪とかビーチパラソルとか。すっごいかわいかったの!」  あゆが言いだしたのは、キャラクター『オッケーペンギン』、通称『オッケーちゃん』である。あゆはこれが好きで、グッズからマスコットからたくさん集めている。  そこで途中の階に寄り道することになった。雑貨屋に入って、あゆが向かったのはグッズコーナーではなく、レジ近くの食玩コーナーだった。 「ああ、あったあったこれ。さー、どれにしようかな」  今日のあゆお目当ての『新作』はブラインドボックスのようだ。箱にひとつ入っていて、どの種類が入っているかはお楽しみ……というやつである。  楽しくはあるけれど、やっぱりお目当てのものに出てほしい。あゆはいくつか並んでいる箱を手に取って、「これはちょっと重いかな」「こっちは軽い……気がする。パラソルかなー」などと真剣に推理をはじめた。  美雪はそれをしばらく見守っていたけれど、そのうち近くのものが気になってきた。食玩はほかにもいろんな種類がある。  こういうものは割合好きだ。子供の頃からつい興味を惹かれてしまう。見ているだけでも楽しいし。  よって近くのものを順々に見ていって……そのひとつの前でちょっととまってしまった。 『初版本コレクション』  その箱にはそう書いてあった。そしてパッケージに印刷してあったのは、青い表紙の本。  芥川龍之介。羅生門。  流石に商品状態のものなので、横に種類の説明も書いてあった。  あら、これだわ。  美雪はちょっと驚いて、思わず手に取っていた。  ブラインドボックスのものだったようだ。てっきり普通に売っている雑貨かなにかのグッズだと思っていたのだけど。  確かに最近はこういう……あゆが今、選んでいる『オッケーちゃん』のようなキャラクターもの以外のものも多く売っているけれど。その類のものだったようだ。  手に取ったそれには、側面にいくつか種類が書いてあった。六種類ほど入っているようだ。  おまけにこれはシリーズものらしい。『第四弾』とも書いてあった。シリーズになるくらいに、人気があるようだ。  ひとつ買ってみようかな。  そんな気持ちになった。  くるっとひっくり返してみて値段を見てみると、ひとつ三百円、と書いてあった。こういう食玩にしては安価なほうである。  その値段も美雪の気持ちを後押しする。服のセールに豪遊してしまったとはいえ、三百円だ。これからしばらくコンビニでお菓子を買ったりするのを我慢すればいい。  さて、ではどれにしよう……。  あれこれ手に取って比べてみて、でもこれは多分、大きさも重さもほぼ違いがないものだろう。彼のスマホについていたものを見ただけでも、その点にまるで違いなどなさそうだった。  なので、どれを引くかは完全に運だ。あまり悩んでいるより直感で引いたほうがいい。  最終的に美雪は、真ん中あたりにあった一箱を取り上げた。  さぁ、なにが入っているやら。  そこへあゆがやってきた。 「ねぇ、美雪。これとこっちのどっちに『浮き輪オッケーちゃん』入ってると思う?」  両手に箱を持っている。どうやらあゆも先程だいぶ豪遊してしまったので、この食玩はひとつにしておこうというつもりらしい。  中身なんて勿論わからないけれど、美雪はふたつを手に取って、見比べて、持ち比べてみた。  そうしてまた、開けてみなければわからない、見えぬ中身を推理してしばらくあゆと言い合ったのだった。
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