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本を探しに
翌日、美雪の向かったのは隣町だった。住んでいる街よりも少し賑わっている街で、当たり前のようにお店は多いし、それも大型の店舗が多い。買い物にはうってつけなのである。
今日はいつかのように、あゆや友達と一緒ではなく、一人で来た。
一人で来たい気分だった、ので。
昨日の電車のあのことは、夢ではないかと思った。なにしろ、にわかには信じがたい出来事だ。
それに合っているかなどわからない。自分の都合のいい解釈と妄想かもしれないのだ。
しかしそんなことはないだろうと、内心ではわかっていた。
司の性格はもう、それなりには知っている。詳しいはずはなかろうが。
けれどこと、スマホと本と、プラスチックの本のことに関しては、割合知っているほうだろう。
だから多分、合っているのだと思う。
あれは司からの、遠回しな告白なのだろうということは。
当たり前のように昨日は眠れなかった。
なにしろ密かに想いを寄せていた相手からそんなことをされたのだ。
彼なりの、言葉にならない言葉で。
文豪の素敵な言葉を借りて。
大切な想いを込めて。
それがまた、彼にとって大切なことがらであるものを使って、そしてとても彼らしい方法で伝えられたこと。
もうひとつ、嬉しく思っても当然だろう。
夏休み、最後の日の授業はうわのそらだった。最終日なので、ホームルームとちょっとしたレクリエーションくらいしかなかったけれど、先生の言葉など入ってくるものか。
幸い、周りのクラスメイトたちもうわのそらだったのであまり目立たなかっただろうが。勿論、クラスメイトは明日からの夏休みでうわのそらだったに決まっているけれど。
考える、というよりは、まだ放心に近かった。あまりに衝撃が強かったので。
嬉しいに決まっている。心臓はどくりと大きく高鳴ったし、きっと顔も赤くなっただろう。
告白など初めてだったのだから。
やっと考えられたのは、午後もまだ早い時間に学校がすべて終わって、帰路についてからだった。
基本的に美雪は一人で帰る。単に仲のいい子が別方向であるからだ。よく「ちょっと寂しいな」とは思っている。でも今はそれが好都合だった。
電車に乗ると朝の出来事をまざまざと思い出してしまって、どうにも。本を読むどころではなかった。
それどころか座ってぼうっとしていることもできなくて、座った座席は早々に立ってしまった。
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