画面の中に、本

1/1
前へ
/19ページ
次へ

画面の中に、本

 彼は確かにずっとスマホを弄っている、というか、視線を落としている。片手でつり革に掴まって、割合小さいサイズのスマホを片手で操作。  しかしどうも、彼は普通の高校生とは少し違うものを見ているらしい。  高校生であれば、音楽を聴くとか、SNSをチェックしたり発信するとか、あるいはアプリゲームをプレイするか。そういうものが定番だろう。  しかし彼は、『弄る』という表現が似つかわしくないほど、スマホ画面に触らなかった。  じっと見つめて、たまにちょい、と触れる。横にスライドして、ページを動かしているらしい動きしかしない。  横長のものを見ているようなのだが、そんなふうに見るものはあまりない、と少し不思議に感じていた美雪であった。  が、その謎はあっさり解けた。  その日、彼は偶然だろうが美雪のごく近くでつり革に掴まっていたのだ。そして彼が電車を降りようとするとき。  スマホの画面がちらりと見えた。  その画面には、文字がびっしり並んでいた。ちょっと驚いてしまうくらいに。  しかしすぐに理解した。  どうやら読書アプリのようだ。  そうであれば、横にちょっとスライドするだけの動きも合点がいった。横へページをめくって読んでいるということだ。  そしてそれは重要な情報のひとつであったのだ。  彼の持つそのスマホ。そのサイドにぶらさがっている、四角いものがなにかということを特定するために。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加