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画面の中に、本
彼は確かにずっとスマホを弄っている、というか、視線を落としている。片手でつり革に掴まって、割合小さいサイズのスマホを片手で操作。
しかしどうも、彼は普通の高校生とは少し違うものを見ているらしい。
高校生であれば、音楽を聴くとか、SNSをチェックしたり発信するとか、あるいはアプリゲームをプレイするか。そういうものが定番だろう。
しかし彼は、『弄る』という表現が似つかわしくないほど、スマホ画面に触らなかった。
じっと見つめて、たまにちょい、と触れる。横にスライドして、ページを動かしているらしい動きしかしない。
横長のものを見ているようなのだが、そんなふうに見るものはあまりない、と少し不思議に感じていた美雪であった。
が、その謎はあっさり解けた。
その日、彼は偶然だろうが美雪のごく近くでつり革に掴まっていたのだ。そして彼が電車を降りようとするとき。
スマホの画面がちらりと見えた。
その画面には、文字がびっしり並んでいた。ちょっと驚いてしまうくらいに。
しかしすぐに理解した。
どうやら読書アプリのようだ。
そうであれば、横にちょっとスライドするだけの動きも合点がいった。横へページをめくって読んでいるということだ。
そしてそれは重要な情報のひとつであったのだ。
彼の持つそのスマホ。そのサイドにぶらさがっている、四角いものがなにかということを特定するために。
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