2人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな彼が私は嫌いだ。
最近、私にお節介を焼く男子がいる。
気づけば、今日も一緒に帰ることになってしまった。
そうなった原因は、学校付近で女性を狙った殺傷事件が多発しているからだ。
私はそんな彼が嫌いだ。
家は逆方向なのに一緒に帰ろうとする彼が私は嫌いだ。
この辺に用事があると言って、最寄りの駅まで一緒に歩いてくれる彼が私は嫌いだ。
教科書を忘れた私に、余ってるから貸してやると言って分かりやすい嘘を付く彼が私は嫌いだ。
他の人と話す時はおちゃらけた態度を取るのに、私と話す時だけ真面目な顔をする彼が私は嫌いだ。
鈍感な私でもすぐ気づくようなアプローチを掛けてくる彼が私は嫌いだ。
いつの間にか、彼の事を考えるようになった私は……どうすればいいの。
「きやあぁぁぁー!」
女性の悲鳴が聞こえた方向へ勢いよく振り向くと、女性が黒い服を来ている男に包丁で刺され、血を流して倒れている。
刺した男は血を垂らした包丁を構えながら私に向かって走ってきた。
非現実的な光景と、男の狂気に満ちた眼差しに、足が動かない。
「くそっ! 邪魔しやがって!」
男が悪態をつくように言葉を吐き捨てると、目の前の景色は真っ赤に染っていた。
「なんで私なんかを庇ったのよ……!!」
彼が、包丁の刺さった場所を抑えながら、目の前で崩れるように倒れた。
「はは、大好きな子を守るのに理由なんてないよ……君が、無事でよかった」
私は彼が嫌いだ。
やっと、私が自分の気持ちに気づいたのに、気づかせてくれたのに、私の前から居なくなろうとする彼が嫌いだ。
私は消え去りそうな彼の手を握る。
「おねがい……やっと、やっと自分の気持ちに気づけたのに、居なくならないでよ……私は、あなたの事が好きなの!」
私の言葉は空を切るように蒼空へ飛んでいった。
結局彼には言葉は届かず、握っていた手は力なく地面へと落ちる。
好きにさせておいて、勝手にいなくなる彼が私は嫌いだ。
素直になれず、彼に気持ちを伝えれなかった私は、私が一番大っ嫌いだ。
最初のコメントを投稿しよう!