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序 章
「ルシアン王国第三王女、第四騎士団副団長、カザハナ・ルシアン様、ご帰還‼ 城門を開けよ‼」
騎馬兵の言葉に呼応して、城を囲む門が開く重々しい音が響き渡る。光が漏れるその先を、馬車の窓から漆黒の双眸は静かに見つめていた。
「久しぶりのご帰還ですね、カザハナ様!」
開門を見届けた馬車が門を潜り、仰々しく閉まる門を後にすると語りかけてきたのは彼女の向かいに座る従者の少女。年は十三と若く、幼さが残る顔立ちをしている。町人の出であるが故に、これまで乗ったことのない絢爛な馬車に緊張の面持ちでいたが、無事王都に帰ってこれたことをとても喜んでいるようだ。その笑顔を一瞥し、すぐに視線を外に向ける。
「……ああ、そうだね。こんなこそこそではなく、堂々凱旋という形で帰国したかったけどね」
冷めたカザハナの様子を見た従者は慌てて口を押え、申し訳なさそうに顔を伏せる。
年若い彼女が喜ぶのもわかるのだが、カザハナの心は故郷に帰って尚、北の戦場に在った。
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