魔法と運命

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 魔法使いの多くは、組織に属して働いている。組織は人間や精霊などから依頼を受け、内容に応じて魔法使いを派遣し、報酬(ほうしゅう)(たずさ)わった任務に応じて分配される。  未熟な魔法使いにも出来る仕事はあるが、実力者しか果たせない案件も少なくない。その中で僕が所属する部門は、運命に手を加える特殊な魔法を使いこなす精鋭揃いだ。  今回の件は、未来視という異能(いのう)を持つ占い師からの依頼だった。彼はロマの血をひく人間で、仕事の仲介という形で魔法使いの組織と関わりを持っていた。  依頼内容は「私の命を代償として、娘を無傷で助けて欲しい」というもの。  娘と共に事故に()う予知夢を見た占い師は、自分らの運命を精査してくれるよう組織に求めてきた。それで、近いうちに大きな事故が起きることがわかり、父娘はそれに巻き込まれ、完治不可能な重傷を負う運命という鑑定結果を受けた。 「私はいいが、娘が焼けただれて不自由な身体になるなど耐えられない。あの子の人生は、まだまだこれからなのに」  占い師は安くない報酬を前払いし、魔法による運命の変更を依頼した。  運命を変えるメカニズムは複雑で、どんな場合でも必ず代償を必要とする。例えば腕を骨折する運命を回避するなら、同等以上の代償を用意しなければならない。単に避けるだけでは、運命は利子を加算するかのように、腕の欠損や麻痺など骨折より過酷な未来を後々もたらすのだ。  男手ひとつで慈しみ育てた一人娘だという。占い師は自らの命を代償として差し出すのをためらわなかった。  それなのに、同時刻であるはずの彼の死と事故のタイミングがズレたせいで、僕は娘を救えなかったのである。
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