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満腹になった犬は、僕のところにトコトコやって来て、礼でも述べるように一声わんと鳴いた。
「おまえの世話係も必要だね」
犬の頭を撫でてから、家の中をざっくり見て回った。
部屋数は少ないが天井の高いゆったりした間取りで、暖炉や安楽椅子が置かれた居間の大きなカーテンを開けると、その向こうはスペイン風の中庭だった。敷き詰められた石畳に陽光があふれ、よく手入れされた緑と花の鉢植えが並んでいて、小さな噴水まである。
「素敵な家だな」
ここの占い師には会ったこともなかったが、家の様子から伺える美意識に好感を持った。
内側は明るく暖かい雰囲気なのに、外側に向いた窓はほとんどない。堅牢な隠れ家のようで、魔法使いの僕にも居心地が良さそうだ。
病院で周囲の目を欺きながら修復するのも面倒だし、僕は少女をここに移動して作業することに決めた。
まず痛みと出血を止める。著しい欠損でヒトの形として不完全ではあったが、幸いなことに脳と内臓には損傷がないらしい。応急的に皮膚を再生させ、表面の傷をしっかり塞いでから退院させた。
普通ならありえない経過でも、魔法をちょっと使えば誰も疑問に思わなくなる。退院する時、診療記録とともに医師や看護師らから少女についての記憶を抹消した。
「必ず元に戻すからね」
少女を心配そうに見守る犬に声をかけ、僕は本格的な修復に入った。
「おはよう」
聞こえるかどうかわからないが、毎朝そうやって声をかけてから作業を始める。皮膚と違って骨や筋肉を再生させるには時間がかかり、特に神経が密集している顔面の修復には細心の注意が必要だ。
「おはよう」
「おはよう……ございます」
返事が返ってきたのは、修復を始めてから一か月後のことだった。
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