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形だけはどうにか戻したが、機能はまだ不完全で、まともに動かせなかったり麻痺している部分が多いはずだ。
「僕はあなたの治療を担当している療法士です。どこか痛みますか?」
少女はイイエと答えた。
「事故のことを憶えていますか?」
そう問うと少女は首をかしげた。
「わからない……」
目覚めたばかりだからかと思ったが、どうやら負傷によるショックで記憶が欠落してしまったらしい。事故のことだけでなく、自分の名前や父親と暮らした記憶まで失っていた。
「無理に思い出さなくても大丈夫。まずは治療に集中しましょう」
僕は少女の動かない手を取り、マッサージやリハビリのふりをして魔法をかけ、少しずつ元に戻していく。
「気持ちいいです」
彼女はうっとりと目を閉じて微笑んだ。
「あなたの手は温かくて優しいから」
うす朱く頬を染めたその表情に、僕は柄にもなく動揺した。
この修復は、組織の指示でやっているに過ぎない。終われば、僕に関する記憶を抹消して立ち去る予定なのだ。そこに「優しさ」などあるわけがない。元の記憶を失った状態で、更に今の記憶まで消し去ったらどうなるかなんて、少しも案じていないのだから。
「治療はいつまでですか?」
少女の問いには心細そうな響きがあった。胸にチクリと小さな痛みを感じる。
「あなたがすっかり元気になるまでですよ」
嘘、ではない。
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