ノッポ

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ノッポ

「おはようございます、お嬢様。朝食の支度が整っております」  浅野のその言葉で私は飛び起きた。服も着替えずに扉を開ける。 「浅野、イツキ様からお手紙は?」 「届いております。お嬢様、御髪(おぐし)が」 「見せて」  こほんと咳をして発された小言を無視して、浅野に詰め寄る。 「朝食が先です」 「そんな事言わずに、早く!」  我慢できずに催促する私に対し、銀縁眼鏡の奥から冷ややかな視線が注がれる。 「読んだらお返事を書きたくなるでしょう?  ですから先に朝食をお召し上がりください」  ぐぬぬ、と押し黙った。流石は我が七条(しちじょう)家に仕える使用人の中で最も優秀なだけある。タブルのブラックスーツをビシッと着こなした彼に口で勝とう、などと思うのが間違いであった。  観念して着替えをする。あれから私はイツキ様と手紙のやりとりをしている。相手先は浅野が調べてくれたので、私は手紙を書くだけ。どうして届くのかは分からないが、ちゃんとお返事は来ている。  私のペンネームは夏椿。手紙の宛名にもこの名が書いてあるが、郵便をチェックするのは浅野なので、こうして私の手元に届くのである。
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