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「お隣によろしいですか?」  青年は微かに笑みを浮かべ、松原に伺いを立ててくる。 「……構わない」  さすがにすぐに帰るとは言い出せず、松原はそっけなく言い放つ。 「僕ではお気に召しませんか?」  少し悲しげに口元を歪めている男に、松原もさすがに罪悪感が湧き上がった。  目の前でしおらしく座っている男は、さすがこの界隈の人間なだけあって美青年というに相応しい顔立ちだ。  黒のミディアムヘアーに隠れた白い頬は、血色が悪く見えるがどこか儚げにも感じられる。綺麗な二重瞼のラインが、伏せた目元に線を引く。薄い唇は少し赤みを差し、キュッと引き結ばれていた。 「別にそういうわけじゃない。だけど、俺は男は抱けない。取引先にとんだ勘違いをされて、ここに連れてこられただけだ」  嘘を並べたところで、抱けないものは抱けない。だったら本当のことを言った方が、彼も納得してくれるはずだった。彼のことを気に入る気に入らない。そういう次元の話ではないのだと、松原はネクタイを緩めながら淡々とした口調で告げた。 「そうですか……」  心なしか気落ちしているような口調に、松原はちらりと男を見た。  彼は静かに唇を噛み締め、俯いている。なぜそんなに辛そうな表情をしているのだろうか。松原が疑問を口にしかけようとすると、不意に男は顔を上げた。 「僕はハルヤと言います。これも何かのご縁ですし、名前ぐらいは名乗らせてください」  そう言ってハルヤは、さっきまでの痛々しげな表情から一変、ふわりと笑みを浮かべた。
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