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「お酒でも飲まれますか?」
ハルヤの続けざまの問いかけに、松原は少しきまり悪く頷いた。
返事を聞いたハルヤはすぐさま立ち上がると、部屋の襖を開き「すぐ戻ります」と言い残し、部屋を後にした。
一人残された松原は、小さく嘆息すると畳に後ろ手を付いて天井を仰ぎ見る。
まさかあんな顔をされるとは思ってもみなかった。
愛想笑いでも浮かべて、適当に相手してそれで済むなら楽だ。そんな風に思うだろうと気楽に考えていたが、実際はそんな雰囲気ではなかった。
伏せた目元と噛み締めていた唇からは、とてもラッキーだったと思っているようには見えない。それもプロ意識からか、すぐさま笑みを浮かべて、こちらに気遣ってさえいるようにも見えたのだ。
彼は誰かに抱かれることを、喜びだと感じる男なのだろうか。それとも自分が抱かれなかったことに、プライドが傷ついたということなのか。どちらにしろ松原からしてみれば、こういった職に就いていること自体、色眼鏡で見てしまう。
金のため、自分の欲のため。どちらにしても、体を簡単に許してしまう神経が信じられなかった。
「失礼します」
不意に声がして襖が開かれると、盆を片手に持ったハルヤが姿を見せる。松原は体勢を戻し、寄せていた眉間の皺を解く。
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